トットットッ。トットットットットットットッ――。
クェクェっ!
山の中の一本道を、銀色の巨大ヒヨコが軽快に走る。
山岳地帯の道だけあって草もあまり生えていないが、土の道で走りやすいのか、銀色のパルフェ——ミーティアは、上機嫌だ。
程なく、谷に入る。
谷底の一本道を、パルフェが力強い走りで真っ直ぐ進む。
遥かな昔に地割れでも起きてできた道なのか、両脇は切り立った断崖絶壁だ。
更にその上――崖の上には多少木が生えているようだが、さすがに距離があってこの位置からでは確認できない。
ガラガラガラガラ……。
「あら? 誰もいないかと思ったら、先客がいたみたいよ」
微かに聞こえてきた音に目をこらすと、前方に土煙が上がっている。
ミーティアの背でふんぞり返って目をつぶっていた白猫アルも、身を起こして前方を覗きこんだ。
さすがにミーティアの方が速度が早かったようで、あっという間に追いつき、並走する。
四頭立ての黒い箱馬車が一台に、馬車を守るかのように周囲を固めて走る馬が六頭。その全てに護衛と思しき屈強な男たちが乗っている。
馬車の御者が一名。馬車の内部――レースのカーテン越しに一名。マントでスッポリ身を包んだ警備の者たちが六名。計八名の視線がわたしに集中する。
何を警戒しているのか、視線からビリビリとむき身の殺意が伝わってきてなんとも居心地が悪い。
「何を運んでるんだろ。もしくはどこぞの貴族のお忍びか何かかしら……」
嫌な視線を浴び続けられるのに閉口したわたしは、馬車集団に向かって無理矢理笑顔を作ると、パルフェの速度を上げて一気に引き離した。
くわばわくわばら。
何を運んでいるんだか知らないけど、こんな胡散臭い集団、関わり合いになるべきじゃないでしょ?
ところが、そんなわたしの思惑はあっという間に打ち砕かれた。
百メートルほど引き離したところで、集団がいきなりスピードを上げたのだ。
凄まじい量の土煙を立て、後方から猛スピードで追ってくる。
「ちょちょちょちょ! なんでなんで!? 追い抜かれて頭に来たとか? 道、ここしかないのに!!」
「いや、上だな。見えるか? エリン」
「上?」
アルが、ミーティアの首につかまりつつ頭上を睨みつけた。
わたしもミーティアの手綱を必死にコントロールしつつ、崖の上を見る。
ドドドドドドドドッドッドドドッド!!!!
「うらぁぁぁぁ! うらぁぁぁぁぁああ!!」
ズキューーーン! ズキューーーーーーン!!
「……何よ、あれ」
鬨の声を上げつつ、馬に乗った集団が急斜面を駆け下りてきた。
口を茶色のストールで覆い、ウェスタンハットを目深にかぶっているせいで表情がさっぱりわからない、十人ばかりの集団だ。
皆、左手で馬の手綱を取り、銃を撃ってくる。
対抗するべく馬車側の護衛も銃を取り出し、馬を走らせながら迎撃を始める。
あっという間に銃撃戦だ。
とはいうものの、使っているのはご存じ詠唱銃だ。
五メートルも離れたら静止した的にすら当たらないのに、更に全員馬に乗っているとあっては、振動が激しすぎて本気で戦う気があるのかと真剣に疑ってしまうような役立たず武器だ。
まぁ、絵面は派手だけど。
だが、ここまでバカスカ撃ちまくっていると、反対に、偶然飛んできた流れ弾にやられる可能性が出てくる。
「なんでここの連中、詠唱銃なんて持ってるのよ! こんな乱戦で使われちゃ危なくってしょうがないわ!!」
「ふむ。ちょうどいい感じの目撃者だな」
馬に乗った護衛の一人が、銃を撃ちながらわたしと並走する。
アゴヒゲを生やした、結構イケメンなちょい悪オヤジだ。五十代くらいだろうか。
ギョっとして振り返る。
「何? なんか言った?」
「いや、こっちのことだ。巻き込まれたくなければ早く逃げるんだな、お嬢さん!!」
茶色いズボンに茶色いブーツ。白いシャツ以外、ベストにコートにと全身茶系で揃えたコーディネート。よく見ると胸に流星マークのバッヂを付けている。保安官だ。
さっきまでマントでしっかり身体を覆っていたので分からなかった。
「あなたたち保安官だったの? それにしてはずいぶんと目つきが悪いわねぇ!」
「余計なお世話だ!! あいつらは銀行強盗だ。馬車に積まれた金塊を狙って襲ってきたんだよ! くぬやろ! くぬやろ!!」
保安官も強盗団もひっきりなしにぶっ放しているが、馬に乗りながらだから、見ているわたしにも銃弾がどこに飛んだのかさっぱりわからない。
幸いなことに、これだけ景気よく銃弾をバラ撒いているのに両軍ともに一人も犠牲者が出ていない。今のところは。
とはいえ、だからといって今後絶対に当たらないかというと……。
バン! ババン!!
突如、わたしの纏った魔法防御壁が連続発光した。流れ弾が当たったのだ。
予測がつかないだけに、こういうことも起こる。
「ちょっと!! こっちにくるなぁぁぁぁ!!!! あぁもう、完全に巻き込まれちゃってるじゃない!」
強盗たちはすでに崖を降りて、後方から馬で追尾してきている。
銃を撃ちながら迫る十人ばかりの強盗集団に、馬上で振り返って迎撃する六人の保安官たち。
どう見ても強盗団の方が優勢だ。
「どうするよ、エリン。逃げるか?」
ミーティアの頭に登ったアルが、周りをキョロキョロ見回しながら尋ねてくる。
「逃げるたって一本道だし無理でしょ。んもぅ仕方ないわね、加勢するわよ!」
懐からピンク色の短杖を取り出したわたしは、ミーティアを走らせながら、目の前にササっと魔法陣を描いた。
「ヴォカテ トニトゥリーブス スピリートゥム(雷精召喚)!」
魔法陣が光を放つと、中から雷球が一斉に飛び出した。
十個ほど飛び出た雷球が、発射準備完了とばかりにわたしの頭上をぐるぐる回る。
目をつぶったわたしは、頭の中で強盗団に照準を合わせる。
まかり間違って保安官に当たろうものなら後が面倒だもんね。
「行け、雷球!!」
わたしの合図に合わせて戦場の各地に散った雷球が、上空から強盗団に向かって次々と雷の矢を放った。
ドドッォォォン! ドドッォォォォォン!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁあぁああ!!」
「がががががあががががが!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
雷球には射程圏内に入ったターゲットに対し、雷の矢を自動連続発射するように命令してある。
今回殺傷力は充分落としておいたが、瞬間的に高電圧が身体を駆け巡る上に何十発も当たるとあっては無傷ではいられない。
強盗団の面々が成す術もなく落馬していく。
群れのリーダーなのか、最後まで抵抗していた禿げ頭の巨漢が感電・失神してゲームオーバーとなった。
「んー、まぁ……こんなもんか」
念のためを考え、落馬した後も逃げ出せないよう追撃を命令しておいたものだから、雷球は地面に落ちた強盗に無情にもとどめを刺しまくっている。
お蔭で、一人残らず気絶している。
そこへ、ちょい悪オヤジが馬から降りて近づいてきた。
眼鏡をかけた温厚そうな男性も、馬車から降りて合流する。
握手のつもりか、ちょい悪オヤジがわたしに向かって手を差し出した。
「ドミニク=ゲーゼだ。この先にあるダットンの町で保安官をしている」
「エリン=イーシュファルト。旅人よ」
わたしはニッコリ笑ってその手を握った。
次いで、眼鏡オヤジも握手を求めてきたのでこちらも笑顔で握手を返す。
「フリッツ=ホフマンだ。ダットンの町の銀行員だよ。君のお陰で銀行の金が守られた。ありがとう、お嬢さん」
ドミニクとフリッツが嬉しそうに手を合わせる。
その様子を見る限り、ただの知り合いというより昔からの親友っぽい。年齢も近そうだし。
とそこで、ドミニクが再びわたしの方に振り返った。
「ところでさっきの魔法。ありゃ凄かったな。君は強いんだな」
「それほどでもないわ。まぁでもこれで全員無力化できたから、逮捕は楽でしょ」
「そうだな。さっき本部に連絡をしたから、程なく増援が到着するはずだ。一緒に本部に来てくれないか? 礼がしたい」
保安官たちが、そこら中で気絶している強盗たちを後ろ手に縛りまくっている。
それを横目で見ながら、わたしは小さくうなずいたのだった。
クェクェっ!
山の中の一本道を、銀色の巨大ヒヨコが軽快に走る。
山岳地帯の道だけあって草もあまり生えていないが、土の道で走りやすいのか、銀色のパルフェ——ミーティアは、上機嫌だ。
程なく、谷に入る。
谷底の一本道を、パルフェが力強い走りで真っ直ぐ進む。
遥かな昔に地割れでも起きてできた道なのか、両脇は切り立った断崖絶壁だ。
更にその上――崖の上には多少木が生えているようだが、さすがに距離があってこの位置からでは確認できない。
ガラガラガラガラ……。
「あら? 誰もいないかと思ったら、先客がいたみたいよ」
微かに聞こえてきた音に目をこらすと、前方に土煙が上がっている。
ミーティアの背でふんぞり返って目をつぶっていた白猫アルも、身を起こして前方を覗きこんだ。
さすがにミーティアの方が速度が早かったようで、あっという間に追いつき、並走する。
四頭立ての黒い箱馬車が一台に、馬車を守るかのように周囲を固めて走る馬が六頭。その全てに護衛と思しき屈強な男たちが乗っている。
馬車の御者が一名。馬車の内部――レースのカーテン越しに一名。マントでスッポリ身を包んだ警備の者たちが六名。計八名の視線がわたしに集中する。
何を警戒しているのか、視線からビリビリとむき身の殺意が伝わってきてなんとも居心地が悪い。
「何を運んでるんだろ。もしくはどこぞの貴族のお忍びか何かかしら……」
嫌な視線を浴び続けられるのに閉口したわたしは、馬車集団に向かって無理矢理笑顔を作ると、パルフェの速度を上げて一気に引き離した。
くわばわくわばら。
何を運んでいるんだか知らないけど、こんな胡散臭い集団、関わり合いになるべきじゃないでしょ?
ところが、そんなわたしの思惑はあっという間に打ち砕かれた。
百メートルほど引き離したところで、集団がいきなりスピードを上げたのだ。
凄まじい量の土煙を立て、後方から猛スピードで追ってくる。
「ちょちょちょちょ! なんでなんで!? 追い抜かれて頭に来たとか? 道、ここしかないのに!!」
「いや、上だな。見えるか? エリン」
「上?」
アルが、ミーティアの首につかまりつつ頭上を睨みつけた。
わたしもミーティアの手綱を必死にコントロールしつつ、崖の上を見る。
ドドドドドドドドッドッドドドッド!!!!
「うらぁぁぁぁ! うらぁぁぁぁぁああ!!」
ズキューーーン! ズキューーーーーーン!!
「……何よ、あれ」
鬨の声を上げつつ、馬に乗った集団が急斜面を駆け下りてきた。
口を茶色のストールで覆い、ウェスタンハットを目深にかぶっているせいで表情がさっぱりわからない、十人ばかりの集団だ。
皆、左手で馬の手綱を取り、銃を撃ってくる。
対抗するべく馬車側の護衛も銃を取り出し、馬を走らせながら迎撃を始める。
あっという間に銃撃戦だ。
とはいうものの、使っているのはご存じ詠唱銃だ。
五メートルも離れたら静止した的にすら当たらないのに、更に全員馬に乗っているとあっては、振動が激しすぎて本気で戦う気があるのかと真剣に疑ってしまうような役立たず武器だ。
まぁ、絵面は派手だけど。
だが、ここまでバカスカ撃ちまくっていると、反対に、偶然飛んできた流れ弾にやられる可能性が出てくる。
「なんでここの連中、詠唱銃なんて持ってるのよ! こんな乱戦で使われちゃ危なくってしょうがないわ!!」
「ふむ。ちょうどいい感じの目撃者だな」
馬に乗った護衛の一人が、銃を撃ちながらわたしと並走する。
アゴヒゲを生やした、結構イケメンなちょい悪オヤジだ。五十代くらいだろうか。
ギョっとして振り返る。
「何? なんか言った?」
「いや、こっちのことだ。巻き込まれたくなければ早く逃げるんだな、お嬢さん!!」
茶色いズボンに茶色いブーツ。白いシャツ以外、ベストにコートにと全身茶系で揃えたコーディネート。よく見ると胸に流星マークのバッヂを付けている。保安官だ。
さっきまでマントでしっかり身体を覆っていたので分からなかった。
「あなたたち保安官だったの? それにしてはずいぶんと目つきが悪いわねぇ!」
「余計なお世話だ!! あいつらは銀行強盗だ。馬車に積まれた金塊を狙って襲ってきたんだよ! くぬやろ! くぬやろ!!」
保安官も強盗団もひっきりなしにぶっ放しているが、馬に乗りながらだから、見ているわたしにも銃弾がどこに飛んだのかさっぱりわからない。
幸いなことに、これだけ景気よく銃弾をバラ撒いているのに両軍ともに一人も犠牲者が出ていない。今のところは。
とはいえ、だからといって今後絶対に当たらないかというと……。
バン! ババン!!
突如、わたしの纏った魔法防御壁が連続発光した。流れ弾が当たったのだ。
予測がつかないだけに、こういうことも起こる。
「ちょっと!! こっちにくるなぁぁぁぁ!!!! あぁもう、完全に巻き込まれちゃってるじゃない!」
強盗たちはすでに崖を降りて、後方から馬で追尾してきている。
銃を撃ちながら迫る十人ばかりの強盗集団に、馬上で振り返って迎撃する六人の保安官たち。
どう見ても強盗団の方が優勢だ。
「どうするよ、エリン。逃げるか?」
ミーティアの頭に登ったアルが、周りをキョロキョロ見回しながら尋ねてくる。
「逃げるたって一本道だし無理でしょ。んもぅ仕方ないわね、加勢するわよ!」
懐からピンク色の短杖を取り出したわたしは、ミーティアを走らせながら、目の前にササっと魔法陣を描いた。
「ヴォカテ トニトゥリーブス スピリートゥム(雷精召喚)!」
魔法陣が光を放つと、中から雷球が一斉に飛び出した。
十個ほど飛び出た雷球が、発射準備完了とばかりにわたしの頭上をぐるぐる回る。
目をつぶったわたしは、頭の中で強盗団に照準を合わせる。
まかり間違って保安官に当たろうものなら後が面倒だもんね。
「行け、雷球!!」
わたしの合図に合わせて戦場の各地に散った雷球が、上空から強盗団に向かって次々と雷の矢を放った。
ドドッォォォン! ドドッォォォォォン!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁあぁああ!!」
「がががががあががががが!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
雷球には射程圏内に入ったターゲットに対し、雷の矢を自動連続発射するように命令してある。
今回殺傷力は充分落としておいたが、瞬間的に高電圧が身体を駆け巡る上に何十発も当たるとあっては無傷ではいられない。
強盗団の面々が成す術もなく落馬していく。
群れのリーダーなのか、最後まで抵抗していた禿げ頭の巨漢が感電・失神してゲームオーバーとなった。
「んー、まぁ……こんなもんか」
念のためを考え、落馬した後も逃げ出せないよう追撃を命令しておいたものだから、雷球は地面に落ちた強盗に無情にもとどめを刺しまくっている。
お蔭で、一人残らず気絶している。
そこへ、ちょい悪オヤジが馬から降りて近づいてきた。
眼鏡をかけた温厚そうな男性も、馬車から降りて合流する。
握手のつもりか、ちょい悪オヤジがわたしに向かって手を差し出した。
「ドミニク=ゲーゼだ。この先にあるダットンの町で保安官をしている」
「エリン=イーシュファルト。旅人よ」
わたしはニッコリ笑ってその手を握った。
次いで、眼鏡オヤジも握手を求めてきたのでこちらも笑顔で握手を返す。
「フリッツ=ホフマンだ。ダットンの町の銀行員だよ。君のお陰で銀行の金が守られた。ありがとう、お嬢さん」
ドミニクとフリッツが嬉しそうに手を合わせる。
その様子を見る限り、ただの知り合いというより昔からの親友っぽい。年齢も近そうだし。
とそこで、ドミニクが再びわたしの方に振り返った。
「ところでさっきの魔法。ありゃ凄かったな。君は強いんだな」
「それほどでもないわ。まぁでもこれで全員無力化できたから、逮捕は楽でしょ」
「そうだな。さっき本部に連絡をしたから、程なく増援が到着するはずだ。一緒に本部に来てくれないか? 礼がしたい」
保安官たちが、そこら中で気絶している強盗たちを後ろ手に縛りまくっている。
それを横目で見ながら、わたしは小さくうなずいたのだった。

