***
楽しい時間はいつもあっという間に過ぎてしまう。庭園は先程までの賑わいが幻かの様に静かで、メイド達がテーブルの上に置かれた空のお皿をまとめていく音、そして噴水が流れる音が静かに響く。
「アンリ、お屋敷の中に戻る前に少しだけ座ってお話していかない?」
みんながそれぞれ迎えの馬車に乗り帰って行くのを見送った後、アンリと共に見送りをしていたフレッドに声を掛けられた。
アンリとフレッドは庭園へ戻り、お茶会をしていた噴水前から少し離れた場所にあるガゼボ内のベンチに並んで座っていた。
「ほんと、アンリはたくさんの素敵な人達に囲まれているんだね」
「フレッドもそのうちの一人だよ。だって多分、この世界に来て一番最初に出会えたのがフレッドじゃなかったら、私きっとこんな風に笑って過ごせていなかった」
この世界で目を覚まし、一番に出会ったのがフレッドだ。
今でも忘れない。自分ですら何がどうなっているのか理解できない中、拙い言葉で自らが置かれている現状を話すとフレッドは疑うこと無くアンリを信じ、どんな時もアンリを陰でサポートし支え続けてくれた。アンリが恥を掻く事がないように令嬢としての立ち居振る舞い、マナーを去年は休日のたびに少しずつ教えてくれたりもした。
そんなフレッドも内心では自らの過去に悩みを抱えていたようで、数日間屋敷から姿を消した事もあったが、何がきっかけだったのか心の整理がついた様で伯爵位を継ぐ決心をし、アンリと共に同じ学園に通うことになった。
「フレッドはこの国の事やダンスや勉強、それ以外にもたくさんの事を教えてくれて、私の過去も笑わずに聞いてくれた。それに私が悩んでいる時、フレッドだけは私の異変に気づいて、泣き崩れた私の事を抱きしめてくれた。私にとってフレッドは心の支えなんだ」
「僕は当たり前の事をしていただけだよ」
「前にもフレッドは同じように言ってたけど、その当たり前が私にとっては特別で嬉しかったんだよ」
「アンリ…」
フレッドは静かにアンリの手を握ると温かい手でアンリの小さな手を大切なモノを守るように包み込む。そして一度頷くと、その綺麗な瞳はアンリの青い瞳を真っ直ぐに見つめる。
「これからはもっともっと幸せになろう。二人で一緒に」
この世界に来るまでの暗璃はいつも一人だった。家族からは疎まれ、友人関係はなかなか上手くいかない。外に出れば、見知らぬ人達に目を付けられ絡まれる事もあったし、実際に怖い目に遭った事もある。
そんな日々にひたすら怯えていたし、自分らしさや個性なんてモノは幼少の頃に置いてきた。人の顔色をうかがい、ただ毎日を何事も無く無事に終える。それだけが目標だった。そしてそんな風に過ぎていく日々に行き先も無いというのに、どこかへ逃げ出してしまいたいと思う事もあった。
そしてそんな日々の記憶はすぐに消えるモノでは無かった。この世界に来たばかりの頃は悪夢にうなされる事もあったし、ふとしたタイミングで過去を思い出し苦しむこともあった。
それでもフレッドやクイニー、ミンスやザック、お母様やお父様、屋敷で働いているルエやルイ、ジーヤやディルベーネやメイド達。そして今年になり友人になったカリマーやフルール。そんな彼らと過ごす毎日はこれまで諦めていたようで心の底では欲していた愛情や優しさで溢れていて、アンリの深く傷ついていた心を徐々に癒やしていった。
本当にこの世界に来られて良かった。
この世界に来て繰り返しの事のように思っている事を改めて実感する。
アンリは瞳をキラキラと輝く雫で潤ませながら満面の笑みで頷く。
そして優しい風が頬を撫でる中、アンリとフレッドは初めての不器用で甘い口づけを交わすのだった。
楽しい時間はいつもあっという間に過ぎてしまう。庭園は先程までの賑わいが幻かの様に静かで、メイド達がテーブルの上に置かれた空のお皿をまとめていく音、そして噴水が流れる音が静かに響く。
「アンリ、お屋敷の中に戻る前に少しだけ座ってお話していかない?」
みんながそれぞれ迎えの馬車に乗り帰って行くのを見送った後、アンリと共に見送りをしていたフレッドに声を掛けられた。
アンリとフレッドは庭園へ戻り、お茶会をしていた噴水前から少し離れた場所にあるガゼボ内のベンチに並んで座っていた。
「ほんと、アンリはたくさんの素敵な人達に囲まれているんだね」
「フレッドもそのうちの一人だよ。だって多分、この世界に来て一番最初に出会えたのがフレッドじゃなかったら、私きっとこんな風に笑って過ごせていなかった」
この世界で目を覚まし、一番に出会ったのがフレッドだ。
今でも忘れない。自分ですら何がどうなっているのか理解できない中、拙い言葉で自らが置かれている現状を話すとフレッドは疑うこと無くアンリを信じ、どんな時もアンリを陰でサポートし支え続けてくれた。アンリが恥を掻く事がないように令嬢としての立ち居振る舞い、マナーを去年は休日のたびに少しずつ教えてくれたりもした。
そんなフレッドも内心では自らの過去に悩みを抱えていたようで、数日間屋敷から姿を消した事もあったが、何がきっかけだったのか心の整理がついた様で伯爵位を継ぐ決心をし、アンリと共に同じ学園に通うことになった。
「フレッドはこの国の事やダンスや勉強、それ以外にもたくさんの事を教えてくれて、私の過去も笑わずに聞いてくれた。それに私が悩んでいる時、フレッドだけは私の異変に気づいて、泣き崩れた私の事を抱きしめてくれた。私にとってフレッドは心の支えなんだ」
「僕は当たり前の事をしていただけだよ」
「前にもフレッドは同じように言ってたけど、その当たり前が私にとっては特別で嬉しかったんだよ」
「アンリ…」
フレッドは静かにアンリの手を握ると温かい手でアンリの小さな手を大切なモノを守るように包み込む。そして一度頷くと、その綺麗な瞳はアンリの青い瞳を真っ直ぐに見つめる。
「これからはもっともっと幸せになろう。二人で一緒に」
この世界に来るまでの暗璃はいつも一人だった。家族からは疎まれ、友人関係はなかなか上手くいかない。外に出れば、見知らぬ人達に目を付けられ絡まれる事もあったし、実際に怖い目に遭った事もある。
そんな日々にひたすら怯えていたし、自分らしさや個性なんてモノは幼少の頃に置いてきた。人の顔色をうかがい、ただ毎日を何事も無く無事に終える。それだけが目標だった。そしてそんな風に過ぎていく日々に行き先も無いというのに、どこかへ逃げ出してしまいたいと思う事もあった。
そしてそんな日々の記憶はすぐに消えるモノでは無かった。この世界に来たばかりの頃は悪夢にうなされる事もあったし、ふとしたタイミングで過去を思い出し苦しむこともあった。
それでもフレッドやクイニー、ミンスやザック、お母様やお父様、屋敷で働いているルエやルイ、ジーヤやディルベーネやメイド達。そして今年になり友人になったカリマーやフルール。そんな彼らと過ごす毎日はこれまで諦めていたようで心の底では欲していた愛情や優しさで溢れていて、アンリの深く傷ついていた心を徐々に癒やしていった。
本当にこの世界に来られて良かった。
この世界に来て繰り返しの事のように思っている事を改めて実感する。
アンリは瞳をキラキラと輝く雫で潤ませながら満面の笑みで頷く。
そして優しい風が頬を撫でる中、アンリとフレッドは初めての不器用で甘い口づけを交わすのだった。

