伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く2

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 お屋敷に帰りアフタヌーンティーの時間になっても、アンリの調子は変わらなかった。浮かない表情でフレッドの顔をまともに見られない。

「このバタークッキー、ルエさんがバターから手作りして作ったんだって」

 いつもなら自然と頬が緩むほど美味しいルエの作ってくれた焼き菓子や紅茶を口にしても味がしない。甘みがあっても、なぜか美味しく感じないのだ。

「…ねぇ、やっぱり何かあったんじゃない?もし体調が優れないようなら、すぐにお医者さんを呼んでくるし、ベッドで横になった方が…」
「ううん、大丈夫…」

 フレッドとご令嬢が笑い合っている姿を見てからというもの、心がチクチクと痛み続けているものの、熱も無いし喉が痛いわけでも、咳や鼻水が出るわけでも無い。

「でも確か、図書館に着いた頃はいつも通り笑ってたよね。それこそ、図書館で一度別れてそれぞれ本を探しに行って、再会してから様子がおかしかった。帰り道もほとんど下向いてて、口数も少なかったし…」
「…私ね、おかしいの。フレッドが他のご令嬢とお話して笑っている姿を見てから胸が痛くて…。もし…、もしフレッドが取られたらイヤだって…」

 そう、そうだ。胸が痛むと同時に思ったんだ。もしフレッドが他の女の子の元に行ってしまったらイヤだって…。別にフレッドは誰のモノでも無いというのに。

「もしかしてだけど、嫉妬してるの?あの子に」

 その問いと同時にフルールから聞いた言葉を思い出す。『もしカリマーが他の女の子のモノになってしまったら…、私はイヤです。そう思うと同時に、これが恋なんだと理解しました』と、照れながらも胸を張り堂々と話していた姿を。

 あの時はフルールから恋が何なのか、どうしてカリマーを好きになったのかという話を聞いても好きとは何なのか、友達と恋人は何が違うのか、イマイチ分からないままだった。

 でも今日、確かに思ったのだ。もしフレッドが他の女の子と付き合うことになってしまったらイヤだ。ずっとフレッドの笑顔を私が一番側で見ていたいと。

「もし私がフレッドの事を好いているかもしれないって言ったら…、フレッドは迷惑に思う?」

 アンリが俯きがちに聞くと、それまで不安げにアンリの顔色を伺っていたフレッドは目をまん丸にして驚く。
 そりゃそうか。いきなり元気が無くなってしまったアンリを心の底から心配していたら、そんな相手になんの前触れも無く告白同然の言葉を告げられたのだから。

「私、フレッドの事が好きみたい」

 気づいた時には口から出ていた想いに心臓は遅れて今まで感じたことも無いほどの早鐘を打ち出す。

「えっと…、ごめん。私…」
「迷惑じゃないよ」

 困惑と後悔で焦りながら謝るアンリの言葉を遮るようにフレッドは口を開く。そしてアンリの目を真っ直ぐ見つめながら安心させるように、ゆっくりと優しい口調で続ける。

「アンリに好かれて迷惑なわけが無いよ。むしろ僕からもっと早くに伝えるべきだった。僕にとってアンリは誰よりも大切でかけがえのない人なんだ。ごめんね、僕は弱虫だから好きだって伝えるのが怖くて…」