伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く2

      ***

「アンリちゃん、そのブローチ可愛いね」

 定位置であるソファーにフレッドと並んで座ると、アンリの制服の左胸に付けられたブローチを目にしたミンスが声を上げる。
 このブローチは先日、フレッドがアンリにくれたスノーフレークのブローチだ。

「えへへ、ありがとう。実はフレッドに貰ったんだ」
「へぇ、そうなんだ〜。フレッドくんはセンスあるね」
「ほんとそうなの!おまけに頭も良くて優しくて、女の子にモテない理由が無いよ」

 勢いよく答えるとミンスは「確かに~」と肯定し、フレッドは照れたのかアンリの隣で困ったように頬を掻く。
 そしてクイニーとザックは複雑そうに笑うが、話に夢中になっているアンリは二人の変化に気がつかない。

 会話に夢中になっていると突如扉をノックする音が響き、室内は途端に静かになる。そしてフレッドが腰を浮かすが、それを制止する。

「いつもフレッドが一番に動いてくれるし、今日は私が出るよ」

 扉の元まで小走りで向かい、扉を引くとおさげの髪を揺らすフルールと今日は眼鏡を掛けていないカリマーが並んで立っている。

「フルール先輩にカリマー先輩!お二人揃って、どうしたんですか?」
「アンリさん、突然押しかけてすいません。みなさんもお久しぶりです」
「実はアンリちゃんに少しだけお話があって、今お時間を貰っても大丈夫ですか?」

 背後を振り返ると様子を眺めていた彼らは「行っておいで」とアンリを送り出す。
 一度廊下に出て扉を閉じると、再びフルールやカリマーと向かい合う。

「それで、どうしたんですか?」
「今日はアンリちゃんに忘れ物を届けに来たんです。これ、アンリちゃんのモノですよね」

 フルールは右手に持っていたカゴを差し出す。そのカゴは先日、フルールのお屋敷にお邪魔した時に持って行った手土産を入れていたカゴだ。そう言えば持って帰るのを忘れていたどころか、今の今まで存在を忘れていた。

「わざわざありがとうございます」

 フルールからカゴを受け取るが、何も入っていないはずのカゴにズッシリとした重さがある。上蓋を持ち上げ中を覗くと、たくさんの焼き菓子が詰められている。

「これ…」
「えへへ、実は昨日カリマーとお出掛けして来たんですけど、途中でお菓子屋さんに立ち寄ったんです。それで今日、クラブで集まるという話を聞いていたので、せっかくですしアンリちゃんにもと思って」
「フルールからアンリさんが一日一緒に遊んでくれたのだと話を聞かせて貰いました。なのでこれは少しものお礼です」
「そんな、気にしなくていいのに…」
「是非クラブの方々と召し上がって下さい」

 アンリに笑いかけるカリマーの隣で途端に瞳を輝かせるフルールはアンリの腕を引くと、カリマーから距離を取り、アンリの耳元で声を抑えて話す。

「アンリちゃん、あれから何か進展はありましたか?」
「え?進展?何のですか?」
「もぉ、アンリちゃんったら。あの方々との進展の事なのです」

 つまりフルールが言いたいのは恋の進展があったかと言うことだろう。だが、クイニーやミンス、ザックと会うのは長期休暇が始まって以来だ。

「いえ、今日はお泊り会で集まったんですけど、今日まで彼らと会えていなかったので」
「まぁ!お泊り会?それはビッグイベントですね!!」

 フルールはより一層、瞳を輝かせる。そして脳内で妄想を広げているのか視線を彷徨わせた後、アンリの胸元のブローチへと視線を持って行く。

「あら?アンリちゃん、このブローチ…」
「え?あぁこれは先日、フレッドから贈り物として貰ったんです」
「まぁ、ついに彼も動き出したんですね」

 フルールは再び妄想世界に戻っていったのかニヤニヤと頬を緩ませながらブツブツと独り言を言っている。
 アンリとフルールの様子を伺いつつも、それまで話の内容が聞こえないように離れた位置に移動してくれていたカリマーは独り言を呟き続けるフルールの元にやって来るとフルールの肩に手を遠慮がちに乗せる。

「フルール、そろそろ戻ろう」
「えぇ、もう少しだけ…」
「アンリさんだってクラブのみなさんと過ごしていた中、わざわざ抜け出して来てくれたんだろう?これ以上は迷惑になってしまうよ」
「うぅ…。じゃあ最後にアンリちゃんのこと、ギューッて抱きしめさせて下さい」

 そう言うとカリマーの返答を聞く前にフルールはアンリの胸に飛び込むと小さな体で力強くアンリの事を抱きしめる。

「はぁ、やっぱりアンリちゃんを抱きしめると落ち着きますぅ」
「こら、フルール」

 上目遣いのままフニャッとした顔で幸せそうな声を出すフルールと、そんな相変わらずのフルールに呆れるカリマー。

 そんな二人を前に途端に疑問が浮かび上がる。
 そういえば二人はなぜここに来たんだろう。今は長期休暇中だ。アンリ達の様にクラブで集まるために学園に来ていたり、よほど成績が悪く補習で登校している学生も居るようだが、フルールとカリマーはクラブには所属していない。おまけに成績は四年生で一位と二位という好成績だったはず。そんな二人が補習で学園に来るというのは無いだろう。

 ちなみに成績の一位はカリマーでは無く、フルールらしい。普段、おっとりしていて可愛い先輩であり友人のため忘れそうになるが、生徒会副会長を務めるフルールはカリマーと同じようにスイッチが入ると、まるで別人の様に真面目な表情に変わるという一面もあるのだ。

「そう言えば二人はどうして学園に?」
「生徒会は長期休暇中でも定期的にお仕事がありますから。今はその休憩中なんです」
「そういう事なのです。だからこのハグも残りのお仕事を頑張るための充電なのです」
「そんな事ばかり言うならフルールを置いて僕は先に戻ろうかな」
「うぅ、それはイヤ…。じゃあカリマー、手を繋いで戻ろう?」
「学生が少ないと行っても、それはさすがに…」

 フルールは渋るカリマーの手を握ると嬉しそうに笑う。そしてそんな笑顔を前にして手を振り解く事は出来ないのか、カリマーもフルールの手を遠慮がちにだが握り返す。
 カリマーは真っ正面から気持ちを伝えるフルールに比べたら不器用だ。でもだからこそ、そんな二人を見ているとホッコリするし、二人の恋を応援したくなる。

「じゃあそういう事でアンリちゃん、私達は戻りますね」

 二人に改めてお礼を伝えると、生徒会室に戻っていく二人を見送ったアンリもカゴを持ち直し、フレッドやクイニー、ミンスやザックの待つクラブへと戻るのだった。