事件から三日が経った。あの日、キューバに襲われかけ、ミンスやフレッドのおかげで助かったものの、あまりのショックに二日ほど熱を出し、食事もほとんど食べずに寝込んでいた。
そしてようやく熱が下がり登校してきた今日、アンリはフレッドとミンスと共に生徒会室に来ていた。
生徒会室に入ると眼鏡を掛け仕事モードのカリマーとフルールが神妙な面持ちでアンリ達を向かい入れソファーに座るように促すと、フルールは紅茶を出してくれる。
「アンリさん、体調の方はもう大丈夫ですか?」
「はい…。ご心配をおかけしました」
正直に言ってしまうと、熱が下がったとしても気持ちの方は全く追いついていない。
警備員やフレッドから事情を聞いたらしいお父様やお母様は気持ちの整理が付くまで、ゆっくりと休んでも良いと言ってくれていたが、いつまでも心配を掛けるわけにもいかない。
それに今日、学園に登校しようと決意したのにはもう一つ理由がある。
今、アンリの隣に座るミンスにはあの日、気持ちを伝えられたものの何か言葉を返すことも出来ず、それだけでなく助けられたお礼すらまともに言えていなかったのだ。
朝一番に顔を合わせたミンスにお礼を言うと、それ以上にアンリの体調を心配し、授業中や授業間の休憩時間、教室を移動する際も、いつも以上にアンリを気に掛けてくれた。
そして無事、一日の授業を終えて放課後になるとアンリ、ミンス、フレッドの三人は生徒会室に呼ばれ、今に至る訳だ。
「本日、アンリさん達をお呼びした理由について、既に想像は付いているかもしれませんが、先日の一連の事件についてお話をしたかったからです」
「あの…、キューバ先輩は今どうしているんですか…?」
あの日、警備員に連れて行かれたキューバがどうなったのか、一度フレッドに聞いてみたが、アンリを気遣ってなのか、何一つとして教えてくれなかった。だが、どうしてもずっと気になっていたのだ。
「キューバ・オーガスについては今は自宅待機となっています。これからみなさんからお話を聞いて、その上で理事長や上層部と議論し処分を決める事になりますが、今回の件は少なくとも彼だけで無く、オーガス家の家名に泥を塗る行為でもあります」
「会長さん、今日僕達を呼んだのが当日のことを詳しく聞くため、と言うのは分かりました。でも今、アンリは当日のことすら思い出したくないんじゃ…」
不安げな瞳でアンリを一度見たフレッドはカリマーに向き直る。
「えぇ、本来なら当事者であるアンリさんにお話を聞きたいところではありますが、何よりも今はアンリさんの気持ちが大切です。ですので、アンリさんがお話出来ないようなら、アンリさんには一度席を外して貰う形で、バノフィーさんとシェパードさんからお話を聞かせて貰えればと考えています」
「アンリちゃん、どうする…?」
事件について話すという事はあの日の事を詳細に思い出さなければいけない。ここに居る誰もがそれによってアンリがこれ以上傷つくのは避けたいと考えているようだ。
…だがこれは元々、アンリとキューバの間で起きた事だ。確かに思い出すのは辛いが、フレッドとミンスに任せてしまうのも違うだろう。
アンリはゆっくりと頷く。
「…分かりました。私がきちんとお話します」
「アンリちゃん…、くれぐれも無理はしないで下さいね?」
アンリはキューバが嘘の呼び出しでフレッド達を呼び出し、意図的にアンリが一人になるタイミングを作ったこと。去年のオーリン家で開催された舞踏会の時からアンリに目をつけ、それ以降ずっと狙っていたこと。演劇の授業をアンリが選んだことで偶然、関わりを持ち信頼を徐々に獲得していき、アンリを自らのモノにするタイミングを見計らっていたこと。そして三日前、あの部屋の中で実際に起きた事を一通り話す。
ところどころ声が震えそうになったり涙が溢れそうになるたびに、カリマーやフルールは話を中断しても構わないと言うが、これはアンリにしか話せない事だ。
涙を浮かべながらも真っ直ぐな眼差しを向けるアンリの決意を感じとったのか、アンリの両隣に座るフレッドとミンスはアンリの手を握る。
そんな温かく優しい温もりに勇気を貰ったアンリは一連の全容をなんとか話終えるのだった。
「…分かりました。アンリさん、お話をして下さりありがとうございます。シェパードさんやバノフィーさんから何か追加でお話しておきたい事はありますか?」
「いえ、アンリちゃんが全てお話してくれたので」
ミンスはカリマーにそう返すが、左隣に座るフレッドはアンリの掌を一層強く握り背筋を伸ばすとカリマーへ向き合う。
「会長さん、一つよろしいですか?」
「ええ、なんでしょうか」
「僕はアンリには今まで通り笑って、安心して生活して欲しいと思っています。それだけが僕の望みで、僕自身、アンリの笑顔を守る為に爵位を継ぐこと、そして学園への入学を決めました。ですから今回の件でこれ以上、アンリの苦しむ姿を見たくありません。だからどうかこれからの事、よろしくお願いします」
そう言い切るとフレッドは真っ直ぐにカリマーに頭を下げる。
「バノフィーさん、顔を上げて下さい。生徒会の仕事は学内の管理、そして学生が過ごしやすい空間を作ることです。これからの議論は私達にお任せ下さい」
カリマーは真剣な眼差しで答える。
そしてアンリ達は解放されることになった。それまでカリマーの隣で静かに座っていたフルールはアンリの名を遠慮がちに呼ぶ。
「アンリちゃん、今度落ち着いたらお友達として、ゆっくり二人でお話しましょう」
そんなフルールに頷くと、おさげの髪を揺らしながらフルールは眼鏡の奥の瞳を緩めた。
「改めて忙しい中、ご協力ありがとうございました。アンリさん、また次の演劇の授業でお会いしましょう」
「アンリちゃん、あまり無理はしないで下さいね。私、アンリちゃんの為ならいつだって駆けつけますから」
カリマーとフルールに見送られるようにアンリ達は生徒会室を後にすると、クイニーやザックの待つ別館へと向かうのだった。
そしてこの日から数日後、キューバ・オーガスへの退学処分、およびアンリへの金輪際の接近禁止命令が下される事となった。
そしてようやく熱が下がり登校してきた今日、アンリはフレッドとミンスと共に生徒会室に来ていた。
生徒会室に入ると眼鏡を掛け仕事モードのカリマーとフルールが神妙な面持ちでアンリ達を向かい入れソファーに座るように促すと、フルールは紅茶を出してくれる。
「アンリさん、体調の方はもう大丈夫ですか?」
「はい…。ご心配をおかけしました」
正直に言ってしまうと、熱が下がったとしても気持ちの方は全く追いついていない。
警備員やフレッドから事情を聞いたらしいお父様やお母様は気持ちの整理が付くまで、ゆっくりと休んでも良いと言ってくれていたが、いつまでも心配を掛けるわけにもいかない。
それに今日、学園に登校しようと決意したのにはもう一つ理由がある。
今、アンリの隣に座るミンスにはあの日、気持ちを伝えられたものの何か言葉を返すことも出来ず、それだけでなく助けられたお礼すらまともに言えていなかったのだ。
朝一番に顔を合わせたミンスにお礼を言うと、それ以上にアンリの体調を心配し、授業中や授業間の休憩時間、教室を移動する際も、いつも以上にアンリを気に掛けてくれた。
そして無事、一日の授業を終えて放課後になるとアンリ、ミンス、フレッドの三人は生徒会室に呼ばれ、今に至る訳だ。
「本日、アンリさん達をお呼びした理由について、既に想像は付いているかもしれませんが、先日の一連の事件についてお話をしたかったからです」
「あの…、キューバ先輩は今どうしているんですか…?」
あの日、警備員に連れて行かれたキューバがどうなったのか、一度フレッドに聞いてみたが、アンリを気遣ってなのか、何一つとして教えてくれなかった。だが、どうしてもずっと気になっていたのだ。
「キューバ・オーガスについては今は自宅待機となっています。これからみなさんからお話を聞いて、その上で理事長や上層部と議論し処分を決める事になりますが、今回の件は少なくとも彼だけで無く、オーガス家の家名に泥を塗る行為でもあります」
「会長さん、今日僕達を呼んだのが当日のことを詳しく聞くため、と言うのは分かりました。でも今、アンリは当日のことすら思い出したくないんじゃ…」
不安げな瞳でアンリを一度見たフレッドはカリマーに向き直る。
「えぇ、本来なら当事者であるアンリさんにお話を聞きたいところではありますが、何よりも今はアンリさんの気持ちが大切です。ですので、アンリさんがお話出来ないようなら、アンリさんには一度席を外して貰う形で、バノフィーさんとシェパードさんからお話を聞かせて貰えればと考えています」
「アンリちゃん、どうする…?」
事件について話すという事はあの日の事を詳細に思い出さなければいけない。ここに居る誰もがそれによってアンリがこれ以上傷つくのは避けたいと考えているようだ。
…だがこれは元々、アンリとキューバの間で起きた事だ。確かに思い出すのは辛いが、フレッドとミンスに任せてしまうのも違うだろう。
アンリはゆっくりと頷く。
「…分かりました。私がきちんとお話します」
「アンリちゃん…、くれぐれも無理はしないで下さいね?」
アンリはキューバが嘘の呼び出しでフレッド達を呼び出し、意図的にアンリが一人になるタイミングを作ったこと。去年のオーリン家で開催された舞踏会の時からアンリに目をつけ、それ以降ずっと狙っていたこと。演劇の授業をアンリが選んだことで偶然、関わりを持ち信頼を徐々に獲得していき、アンリを自らのモノにするタイミングを見計らっていたこと。そして三日前、あの部屋の中で実際に起きた事を一通り話す。
ところどころ声が震えそうになったり涙が溢れそうになるたびに、カリマーやフルールは話を中断しても構わないと言うが、これはアンリにしか話せない事だ。
涙を浮かべながらも真っ直ぐな眼差しを向けるアンリの決意を感じとったのか、アンリの両隣に座るフレッドとミンスはアンリの手を握る。
そんな温かく優しい温もりに勇気を貰ったアンリは一連の全容をなんとか話終えるのだった。
「…分かりました。アンリさん、お話をして下さりありがとうございます。シェパードさんやバノフィーさんから何か追加でお話しておきたい事はありますか?」
「いえ、アンリちゃんが全てお話してくれたので」
ミンスはカリマーにそう返すが、左隣に座るフレッドはアンリの掌を一層強く握り背筋を伸ばすとカリマーへ向き合う。
「会長さん、一つよろしいですか?」
「ええ、なんでしょうか」
「僕はアンリには今まで通り笑って、安心して生活して欲しいと思っています。それだけが僕の望みで、僕自身、アンリの笑顔を守る為に爵位を継ぐこと、そして学園への入学を決めました。ですから今回の件でこれ以上、アンリの苦しむ姿を見たくありません。だからどうかこれからの事、よろしくお願いします」
そう言い切るとフレッドは真っ直ぐにカリマーに頭を下げる。
「バノフィーさん、顔を上げて下さい。生徒会の仕事は学内の管理、そして学生が過ごしやすい空間を作ることです。これからの議論は私達にお任せ下さい」
カリマーは真剣な眼差しで答える。
そしてアンリ達は解放されることになった。それまでカリマーの隣で静かに座っていたフルールはアンリの名を遠慮がちに呼ぶ。
「アンリちゃん、今度落ち着いたらお友達として、ゆっくり二人でお話しましょう」
そんなフルールに頷くと、おさげの髪を揺らしながらフルールは眼鏡の奥の瞳を緩めた。
「改めて忙しい中、ご協力ありがとうございました。アンリさん、また次の演劇の授業でお会いしましょう」
「アンリちゃん、あまり無理はしないで下さいね。私、アンリちゃんの為ならいつだって駆けつけますから」
カリマーとフルールに見送られるようにアンリ達は生徒会室を後にすると、クイニーやザックの待つ別館へと向かうのだった。
そしてこの日から数日後、キューバ・オーガスへの退学処分、およびアンリへの金輪際の接近禁止命令が下される事となった。

