伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く2

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「お前…、アンリちゃんに何をしようとした」

 キューバへ投げつけるように吐き出されたミンスの声はアンリに向けた優しい声と違い、酷く冷たい声だ。
 ミンスの顔を見たキューバは目の色を変えると、声を荒げる。

「またお前か!いつもいつもお前らは俺の邪魔をする。俺は真実の愛を全うしようとしているだけなのにっ!」
「何が愛だ。お前のそれはただの執着だ。愛なんて尊いモノと一緒にするな」
「何を偉そうに!俺は、俺はっ!」

 キューバの叫びのような声を聞いていられなくて、頭を膝に埋めると耳を強く強く塞ぐ。
 これ以上何も聞きたくない、何も見たくない。

 初めはキューバを馴れ馴れしい人だなと思っていた。それでもアンリが舞台の練習を楽しく頑張れたのはキューバとカリマーが共に居てくれたからだ。それなのに、そんな人が豹変した姿なんて、もう見たくない。

「アンリ!警備の人を連れてきた!」

 耳を塞いでいても入ってくるミンスとキューバの言い合い。そんな中、よく聞き馴染んだ声も聞こえてくる。
 恐る恐る顔を上げると、息を上げたフレッドが学園の警備員を引き連れて立っていた。

 そこからはあっという間だった。喚き散らかすキューバは警備員に体を拘束され、引きづられる様に部屋を出ていった。そして警備の人に同行を頼まれたフレッドも彼らと共に、一度部屋を後にした。

 残されたのはアンリとミンスだけだ。
 助けに来てくれたミンスや耳に残るフレッドの声。そしてキューバの豹変した表情やアンリをなめ回すように見る瞳、生ぬるい体温…。

「…アンリちゃん?」

 横にはミンスが居ると言うのに、気がつくと目から溢れんばかりの涙と嗚咽が溢れる。

 目を覆い泣いていると途端に心地良い温もりと、嗅ぎ馴れた甘い匂いに包まれる。

「もう大丈夫、僕はここに居るよ。何があっても僕がアンリちゃんを守ってあげる」

 ミンスは優しく、それでも力強くアンリを抱きしめる。さっきキューバに抱きしめられた時は反射的に気持ち悪いと思ったというのに、ミンスの温もりは不思議と荒れた心を落ち着けてくれる。

「それに僕だけじゃないよ。フレッドくんもクイニーもザックも、みんなアンリちゃんを守ってくれる」
「ありが…とう。ミンスくん、来てくれて…ありがとうっ」

 涙が止まることのない瞳でミンスを見上げ、震えた声でお礼を伝えるとミンスは柔らかい眼差しを浮かべながらアンリの頭をゆっくりと撫でる。

「まぁでもアンリちゃんを守るのは、いつだって僕が良いんだけどね」

 悪戯っ子の様に唇の端を上げるミンスだが、泣きじゃくっているアンリの頭の中では、その言葉の真意を探ることは出来ない。

「ねぇアンリちゃん。こんな時に言うのは少しズルいと思うんだけど、一つだけ聞いて欲しいことがあるんだ。聞いてくれる?」

 首を傾げるミンスに、静かに頷いてみせると「ありがとう」と言いながらミンスはもう一度アンリの名を呼ぶ。

「アンリちゃん。僕ね、やっと自分の気持ちが分かったんだ」
「気持ち…?」
「僕ね、今までは大切なお友達としてアンリちゃんを好いていると思ってたの。でもね、アンリちゃんの事を一人の女の子として好いているみたいなんだ。だからいつだってアンリちゃんには誰よりも笑っていて欲しいし、僕が守りたいの」