伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く2

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「ザックくん、改めて舞台見に来てくれてありがとう。それと、実行委員にザックくんが一緒に選ばれてくれて良かったよ」
「いきなりどうしたんだ?」
「特に理由は無いんだけど、急に言いたくなったの」

 改まって礼を告げてくるアンリに驚いてしまう。むしろお礼を言いたいのはこっちだ。
 アンリの初めての舞台は本当に素晴らしかった。昔、舞台の題材となった小説を読んでいたし、物語の展開もある程度思い出していた。だがそんなことは関係なく、途中からはただただアンリ達の創り出す舞台に引き込まれていたのだ。

 実行委員についてもそうだ。もし共に引き受けていたのがアンリでなければ、形だけで仕事を進めるだけで、楽しさを感じる前に淡々と終えていただろう。

「そうか。でも確かに私もアンリ様が同じ実行委員で良かったよ。短い時間だけでも二人で居られるのが嬉しいよ」
「ザックくん?」
「私は自分で言うのもアレだが、幼い頃から冷静で落ち着いた子供だと言われていたんだ。子供に似合わず大人びていると。ミンスや周りの子息達がはしゃいでいても、私だけはいつも冷静で大抵は彼らの仲裁役に回っていた」

 実行委員の件だけではない。昔からこんな性格だったザックには幼い頃から友人と呼べる人はミンスとクイニーだけで、それ以外の子息達とはその場限りの関係だった。
 まぁでもそれもそうだろう。ミンスのように愛嬌もない私と、社交の場で最低限関わる必要があっても、それ以外の場面で私的に関わりたいなんて思わないだろう。

「でもそれもザックくんの個性でしょう?」
「…あぁそうだな。でも子どもは正直だ。ミンスやクイニー以外の奴らは退屈だと言って去って行ったよ」
「…」

 アンリは過去のザックを想像し、想いを馳せたのか、顔を歪め悲しそうな表情を浮かべる。
 本当に優しい方だ。だが同情をもらおうとしたわけでも、そんな顔をさせたくて過去を話したわけではない。

「悪い、別にこんな話をしてアンリ様にそんな顔をさせたいわけじゃないんだ。ただ一つ、伝えたいことがあって」
「伝えたいこと?私に?」

 この見回りが終わってしまえば、アンリと二人っきりで過ごせる時間は滅多なことがない限り、無くなってしまうだろう。それならば今だけは正直に気持ちを伝えておきたい。

「不思議なんだ。アンリ様と一緒に居ると皆達と一緒に居る時とは違った楽しさがある。もっと側に居たいと思うんだ。こんなに心を揺さぶられること、初めてだよ」

 ずっと不思議だったんだ。あれだけ冷静で、どんな時でも淡々としていて一緒に居ても退屈、何を考えているのか分からないと言われていた私がアンリと居るとちょっとしたことで心動かされる。
 いくら勉強が得意でも、目に見えず計算もできない人の気持ちというモノを理解することは苦手だ。それゆえ自分の気持ちに疎い私はつい最近までこの気持ちの正体に気がつかなかった。でもようやく分かった。

「アンリ様。どうやら私は一人の女性としてアンリ様に惹かれているらしい」

 一息に告げると、徐々に言葉の意味を理解したアンリの顔は耳まで赤く染まる。そんな表情を見せられると期待してしまう。
 だがアンリがザックを異性としてではなく、友人の一人として大切にしてくれていることは残念ながら分かっている。

 馬鹿だな、そこまで分かっていて困らせるようなことを言うなんて。

「悪い、アンリ様。いくら友人とはいえ、分を弁えないことを言ってしまった。今のは私の気の緩みだと思って、忘れて欲しい」

 そうだ、自分の気持ちを理解してもアンリに気持ちを伝えるつもりなんてなかった。ただ学祭というイベントに気が緩んでしまった。なにより変に気を遣われて関係があやふやになるより、告白なんて無かったことにして今まで通り接して欲しい。

「アンリ様、ここらで見回りも終わりだ。この後、行きたい場所があるんだが、付いてきてくれるか?」