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アンリ達は今日、貴族階級の必修授業である観覧があり、大講堂にやって来ていた。
大講堂の一階にはズラッと固定式の赤い椅子が並び、子爵家と男爵家の学生達が座る。伯爵家であるアンリやフレッド、クイニーにはボックス席の一室が用意されていて、フレッドとクイニーはアンリを挟むように革製のボタン留めがされているチェスターフィールドソファーに座っている。
ミンスやザックは子爵家の出身だが、一年前クイニーがボックス席に座る事を許可してからはソファーを挟むように置かれた一人用の肘掛け椅子にそれぞれ座っている。
一年前の入学式の日、あの日の朝は低すぎず高すぎない声の持ち主であるフレッドに名前を呼ばれて目を覚ました。そして混乱の中、アンリはフェマリー国ジャンミリー領を治める伯爵令嬢だと聞かされると共に、今日から学園に通うことになっていると告げられた。
そんな勢いのままクイニーと並んで入学式に出席したあの日は緊張や数え切れない不安を抱えながらこのソファーに座っていたが、今ではあの頃の緊張や不安は見る影も無い。
公演中は基本的に私語はマナー違反とされているが、ボックス席だと周囲に声が漏れる心配も無いため、アンリ達は公演が始まってもお喋りを続けていた。
「にしても、アンリは今度からこの舞台に立つんだろう?」
「うん、これから授業で練習していくみたい」
「よくそんな面倒なモノを選んだな」
「三人は絵画だっけ」
「えぇ、どうやら絵画は他の科目に比べて地味と言う要因もあって、選択する学生も少ないらしい」
「でも意外だよね。アンリちゃんが演劇を選ぶなんて」
一年生の頃は観覧の授業で上級生の演劇やオペラ、演奏を聴く立場だった。だが貴族階級の二年次以降は芸術科目を一つ、選択しなければならない。さすが学問だけで無く、芸術面に力を入れているだけあって芸術科目は多種多様な科目が用意されていた。
アンリは期限のギリギリまで迷ったものの、最終的に演劇を選んだ。と言うのも沢木暗璃として生活していた頃、中学で演劇部に所属していた事もあって、一番興味が湧いたのだ。だからといって配役に選ばれたいわけでは無く、ただ舞台を作る事に関わりたかったのだ。
クイニーやミンス、ザックは揃って絵画を選んだ。初めは口裏を合わせて同じ科目を選んだのかと思ったが、どうやら本当に偶然の一致だったらしく、ミンスはザックやクイニーと同じ科目だと知ると満面の笑みで喜び、ザックも口では「騒がしくなりそうだな」と鬱陶しそうに答えていたが、口元は緩み珍しく感情を隠せていなかった。
「フレッドは?来年になったら何を選ぶ?」
「僕はまだ入学したばかりだし、これから色々と考えてみようかと」
「そっか、そうだよね」
ずっとアンリ達の話を静観していたフレッドに話を振れば、フレッドはようやく口を開く。
フレッドはまだこのメンバーで過ごす事に慣れていないからか、こうして五人で集まるとアンリやミンスが話を振らない限り、自ら口を開くことはほとんど無い。
そして上手く話を繋げるように、ミンスが間に入る。
「でもさ、芸術科目は二年生から学年関係なく同じ授業を取れるし、もしかしたらフレッドくんも僕達と同じ授業を受ける事になるかもしれないね」
「はい。もしかしたら、そうですね」
その後も結局、観覧の授業を終えるまでアンリ達はお喋りに夢中になっていた。
アンリ達は今日、貴族階級の必修授業である観覧があり、大講堂にやって来ていた。
大講堂の一階にはズラッと固定式の赤い椅子が並び、子爵家と男爵家の学生達が座る。伯爵家であるアンリやフレッド、クイニーにはボックス席の一室が用意されていて、フレッドとクイニーはアンリを挟むように革製のボタン留めがされているチェスターフィールドソファーに座っている。
ミンスやザックは子爵家の出身だが、一年前クイニーがボックス席に座る事を許可してからはソファーを挟むように置かれた一人用の肘掛け椅子にそれぞれ座っている。
一年前の入学式の日、あの日の朝は低すぎず高すぎない声の持ち主であるフレッドに名前を呼ばれて目を覚ました。そして混乱の中、アンリはフェマリー国ジャンミリー領を治める伯爵令嬢だと聞かされると共に、今日から学園に通うことになっていると告げられた。
そんな勢いのままクイニーと並んで入学式に出席したあの日は緊張や数え切れない不安を抱えながらこのソファーに座っていたが、今ではあの頃の緊張や不安は見る影も無い。
公演中は基本的に私語はマナー違反とされているが、ボックス席だと周囲に声が漏れる心配も無いため、アンリ達は公演が始まってもお喋りを続けていた。
「にしても、アンリは今度からこの舞台に立つんだろう?」
「うん、これから授業で練習していくみたい」
「よくそんな面倒なモノを選んだな」
「三人は絵画だっけ」
「えぇ、どうやら絵画は他の科目に比べて地味と言う要因もあって、選択する学生も少ないらしい」
「でも意外だよね。アンリちゃんが演劇を選ぶなんて」
一年生の頃は観覧の授業で上級生の演劇やオペラ、演奏を聴く立場だった。だが貴族階級の二年次以降は芸術科目を一つ、選択しなければならない。さすが学問だけで無く、芸術面に力を入れているだけあって芸術科目は多種多様な科目が用意されていた。
アンリは期限のギリギリまで迷ったものの、最終的に演劇を選んだ。と言うのも沢木暗璃として生活していた頃、中学で演劇部に所属していた事もあって、一番興味が湧いたのだ。だからといって配役に選ばれたいわけでは無く、ただ舞台を作る事に関わりたかったのだ。
クイニーやミンス、ザックは揃って絵画を選んだ。初めは口裏を合わせて同じ科目を選んだのかと思ったが、どうやら本当に偶然の一致だったらしく、ミンスはザックやクイニーと同じ科目だと知ると満面の笑みで喜び、ザックも口では「騒がしくなりそうだな」と鬱陶しそうに答えていたが、口元は緩み珍しく感情を隠せていなかった。
「フレッドは?来年になったら何を選ぶ?」
「僕はまだ入学したばかりだし、これから色々と考えてみようかと」
「そっか、そうだよね」
ずっとアンリ達の話を静観していたフレッドに話を振れば、フレッドはようやく口を開く。
フレッドはまだこのメンバーで過ごす事に慣れていないからか、こうして五人で集まるとアンリやミンスが話を振らない限り、自ら口を開くことはほとんど無い。
そして上手く話を繋げるように、ミンスが間に入る。
「でもさ、芸術科目は二年生から学年関係なく同じ授業を取れるし、もしかしたらフレッドくんも僕達と同じ授業を受ける事になるかもしれないね」
「はい。もしかしたら、そうですね」
その後も結局、観覧の授業を終えるまでアンリ達はお喋りに夢中になっていた。

