テストが終わってからの日々はあっという間で、いよいよ学祭を明日に控えていた。
看板の製作は数日前に仕上げ作業を終え、乾かしている為、今日の夕方までには完全に乾いているだろう。
そして舞台本番を明日に控えたアンリ達はいつもの集会室では無く、本番の舞台である大講堂に集まっていた。
髪のセットまではしていないが、今日は衣装を着ての通し稽古だ。衣装であるドレスはピンク色をメインとしていて、好奇心旺盛で可愛らしい印象の姫にはピッタリだ。何よりこのドレスを構想から作ったのが衣装係の学生だというから驚きだ。
アンリ達が着替えている間に音響や照明の調整を終わらせたようで、客席に居る先生は舞台監督と共に装置や舞台上の見た目をチェックしている。
舞台袖に立つアンリの近くには同じく衣装に身を包むキューバとカリマーが立つ。
王子役のキューバは白色のシングルブレストコートを身に纏い、腰の鞘にはロングソードが治められている。キューバはとても様になっていて、まるでどこか一国の王子のようだ。
衣装が完成し試着をした際、見ていた女学生がキャーキャーと騒いでいただけの事はある。
カリマーは平民役のため、シンプルな白いシャツとズボン姿だ。
「それにしてもアンリちゃん、本当によく似合ってるね」
「そうですか?ありがとうございます。先輩方も似合っていますよ」
「ありがとう。…でもカリマー先輩に似合ってるって言うのは少し違うんじゃない?」
カリマーの服装はこの国では労働者階級が普段着るような装いだ。そんな事を気にせずに似合っていると言ってしまったアンリは途端に弁明する。
「え?あぁ違うんです。なんていうか、シンプルな格好なのに着こなしていて似合っているなと思っただけで…」
「大丈夫ですよ。そんなに慌てなくてもアンリさんに悪気がない事は分かっていますから」
「そうですか、良かったです」
アンリが一安心していると、面白そうに笑っているキューバに向かってカリマーは声を上げる。
「余計な事まで口に出すのは君の悪い癖ですよ」
「あはは、すいません。でも先輩、私の衣装はどうですか?本当の王子みたいじゃないですか?」
「どうと言われても特に…」
「だってこんな風にアンリちゃんと並んだら、ほらピッタリじゃないですか」
そう言いながらキューバはアンリを引き寄せ肩を組むとどこか満足そうな表情を浮かべる。そんなキューバにカリマーは呆れたように溜息を吐くと、驚きで固まっているアンリに助け船を出す。
「アンリさん、嫌なら嫌と言って良いんですよ」
「あはは…、えっと…」
「アンリちゃん、嫌だった?」
「いや、あの…、嫌とかそういうわけじゃなくて、その…」
いきなり肩を組まれ、喜んで受けれているのかと聞かれてしまえば、答えはノーだ。そりゃあ誰だって異性にいきなり触れられたら驚くだろう。
だがキューバに正直に離れて欲しいと頼んでもおそらく「つれないなぁ」と言いながら笑って終わりだろう。なによりアンリは人に嫌と言うのが苦手だ。
何も気にせずに肩を組み続けるキューバと苦笑いを浮かべるアンリに、カリマーは「やれやれ…」と言いながら呆れている。
居たたまれなくなったアンリに再び助け船を出すように、舞台監督との確認を終えた先生が客席から声を張り上げる。
「そろそろ最後の通し稽古を始めますよ!役者は立ち位置について、音響と照明も準備しなさい。舞台装置係は一度緞帳を閉じて、役者が位置についた事を確認したら、本番のように開演ブザーを押して客席の明かりを落としなさい。それを合図に始めますよ!」
「「はい!!」」
先生の声に舞台袖で和んでいた空気は一瞬にして張り詰める。
カリマーは舞台上に向かい、他の役者達も慌ただしく移動する。舞台装置係の学生は手動ウィンチを回し、左右斜め上方に向かって開いていたベルベット生地でワインレッドの緞帳を閉じる。大道具や小道具担当も舞台裏でいつでも舞台上を転換できる様に準備を進めている。アンリも舞台袖でいつでも舞台上に出られるように待機する。
カリマー達が立ち位置についた事を確認すると開演ブザーが鳴り響き、客席の照明が落ちて真っ暗になる。それを合図に音響担当がゆったりとしたテンポの音楽をフェードインしていくと、ゆっくりと緞帳が開いていく。
そしてアンリは姫役として、最後の練習を終えるのだった。
看板の製作は数日前に仕上げ作業を終え、乾かしている為、今日の夕方までには完全に乾いているだろう。
そして舞台本番を明日に控えたアンリ達はいつもの集会室では無く、本番の舞台である大講堂に集まっていた。
髪のセットまではしていないが、今日は衣装を着ての通し稽古だ。衣装であるドレスはピンク色をメインとしていて、好奇心旺盛で可愛らしい印象の姫にはピッタリだ。何よりこのドレスを構想から作ったのが衣装係の学生だというから驚きだ。
アンリ達が着替えている間に音響や照明の調整を終わらせたようで、客席に居る先生は舞台監督と共に装置や舞台上の見た目をチェックしている。
舞台袖に立つアンリの近くには同じく衣装に身を包むキューバとカリマーが立つ。
王子役のキューバは白色のシングルブレストコートを身に纏い、腰の鞘にはロングソードが治められている。キューバはとても様になっていて、まるでどこか一国の王子のようだ。
衣装が完成し試着をした際、見ていた女学生がキャーキャーと騒いでいただけの事はある。
カリマーは平民役のため、シンプルな白いシャツとズボン姿だ。
「それにしてもアンリちゃん、本当によく似合ってるね」
「そうですか?ありがとうございます。先輩方も似合っていますよ」
「ありがとう。…でもカリマー先輩に似合ってるって言うのは少し違うんじゃない?」
カリマーの服装はこの国では労働者階級が普段着るような装いだ。そんな事を気にせずに似合っていると言ってしまったアンリは途端に弁明する。
「え?あぁ違うんです。なんていうか、シンプルな格好なのに着こなしていて似合っているなと思っただけで…」
「大丈夫ですよ。そんなに慌てなくてもアンリさんに悪気がない事は分かっていますから」
「そうですか、良かったです」
アンリが一安心していると、面白そうに笑っているキューバに向かってカリマーは声を上げる。
「余計な事まで口に出すのは君の悪い癖ですよ」
「あはは、すいません。でも先輩、私の衣装はどうですか?本当の王子みたいじゃないですか?」
「どうと言われても特に…」
「だってこんな風にアンリちゃんと並んだら、ほらピッタリじゃないですか」
そう言いながらキューバはアンリを引き寄せ肩を組むとどこか満足そうな表情を浮かべる。そんなキューバにカリマーは呆れたように溜息を吐くと、驚きで固まっているアンリに助け船を出す。
「アンリさん、嫌なら嫌と言って良いんですよ」
「あはは…、えっと…」
「アンリちゃん、嫌だった?」
「いや、あの…、嫌とかそういうわけじゃなくて、その…」
いきなり肩を組まれ、喜んで受けれているのかと聞かれてしまえば、答えはノーだ。そりゃあ誰だって異性にいきなり触れられたら驚くだろう。
だがキューバに正直に離れて欲しいと頼んでもおそらく「つれないなぁ」と言いながら笑って終わりだろう。なによりアンリは人に嫌と言うのが苦手だ。
何も気にせずに肩を組み続けるキューバと苦笑いを浮かべるアンリに、カリマーは「やれやれ…」と言いながら呆れている。
居たたまれなくなったアンリに再び助け船を出すように、舞台監督との確認を終えた先生が客席から声を張り上げる。
「そろそろ最後の通し稽古を始めますよ!役者は立ち位置について、音響と照明も準備しなさい。舞台装置係は一度緞帳を閉じて、役者が位置についた事を確認したら、本番のように開演ブザーを押して客席の明かりを落としなさい。それを合図に始めますよ!」
「「はい!!」」
先生の声に舞台袖で和んでいた空気は一瞬にして張り詰める。
カリマーは舞台上に向かい、他の役者達も慌ただしく移動する。舞台装置係の学生は手動ウィンチを回し、左右斜め上方に向かって開いていたベルベット生地でワインレッドの緞帳を閉じる。大道具や小道具担当も舞台裏でいつでも舞台上を転換できる様に準備を進めている。アンリも舞台袖でいつでも舞台上に出られるように待機する。
カリマー達が立ち位置についた事を確認すると開演ブザーが鳴り響き、客席の照明が落ちて真っ暗になる。それを合図に音響担当がゆったりとしたテンポの音楽をフェードインしていくと、ゆっくりと緞帳が開いていく。
そしてアンリは姫役として、最後の練習を終えるのだった。

