リアは、その場に立ったまま、白い花をじっと見つめていた。


──なぜ、これを私に?
──喜ぶって、どんなこと?


ひとり、静かな帰り道。
風が、花びらをやさしく揺らした。
その白色は、世界を淡く、透かす。

リアは花を胸に抱いたまま、小道を歩いていた。

だが、その目は、どこか遠くを見ていた。


喜ぶ──そのかたちが、リアにはどうにもつかめない。
ただ、遠くで誰かが見ている夢のように、リアはその感情の名だけを、ゆっくりと手のひらで転がしていた。



そのとき、ふいに、ぐらりと視界が揺れた。



──青白い光。
無機質な白い天井。
頭に響く機械の音。


その中で、たしかに聞こえたのは──



『リア……君に、すべてを託す……』

『どうか……この子が……』



低く、遠い、男の声。


一瞬、心臓がきゅっと縮むような感覚が胸を走った。
リアは、思わず息を呑んだ。




「……今のは……?」




手の内の花が、かすかに震えている気がした。


風が吹き抜け、彼女の銀色の髪を揺らす。

まるで遊んでいるかのように。




遠くで鐘の音が鳴った。
小さな町の、午後だった。