市場の喧騒に足を踏み入れた瞬間、リアは思わず足を止めた。
目の前に広がる、にぎやかで、カラフルな光景。
果物や野菜、布地や細工物、魚に肉にスパイスたち。
「すごいだろ?」と、イファが横で笑う。
「見てみろよ。あれはオルレアンっていう焼き菓子。毎朝、焼くんだ。あっちは干し肉屋。ちょっと塩辛いけど、旅人に人気なんだ。あの奥が布屋で、その向かいに……」
人々の間をすり抜けながら、イファは市場の説明を続けていく。
リアはただ、その喧騒と色彩を、じっと見つめていた。
やがて、通りの一角に、木製の小さな屋台が見えてきた。
「ここがハーブ屋さん。母さんの言ってたやつ、たぶんここで買えるよ」
屋台の前には、乾燥させた葉や香草がずらりと並んでいた。
ミントにバジル、ローズマリー。爽やかな香りがふわりと鼻をくすぐる。
リアが近づくと、優しそうな店の女性が笑顔で声をかけてきた。
「いらっしゃい。あら……見ない顔だねぇ」
リアは一瞬、言葉に詰まった。
隣にいたイファが口を開く。
「俺の家で、母さんの手伝いをしてくれてるんです。……リア、自己紹介、できるか?」
リアはイファをちらりと見て、それから小さく頷いた。
「……こんにちは。リアといいます。……はじめまして。」
「まあ、まあ、可愛らしい子ねぇ。さて、今日は何をお探しかしら?」
リアはメモを取り出し、マリナに言われた通りのハーブの名前を読み上げる。
すると、店の人がハーブを器用に束ねてくれた。
リアはハーブの束を受け取り、少しぎこちなくも、丁寧にお金を差し出した。
「ありがとうね。気をつけて持って帰るんだよ。またいらっしゃい」
ニコニコと笑う店主に、リアは深く頭を下げた。
イファは、少し離れたところからその様子を見て、柔く目を細めた。
「リア、ちょっと待ってて!」
そう言い残すと、彼は向かいの小さな花屋に走っていった。
そこは、通りの角にある静かな店で、にぎやかな市場の中でぽつんと浮かぶようだった。
イファは何かを店主と話しながら、買い物をした。
リアのもとへ風を纏ったような足取りで戻ってくる。
「はい、これ」
「……?」
リアは差し出されたそれを、ゆっくりと受け取った。
白く、小さな花。
薄い花びらが、風にふわりと揺れた。
「……どうして?」
イファは少しだけ言いよどんでから、照れくさそうに笑った。
「リアが、喜んでくれたらいいなって思って」
リアは花を見つめ、小さく「…喜ぶって……?」とつぶやいた。
イファの目が泳ぎ、「いや、あの……おつかいができたから、だな! 頑張ったごほうびってやつ!」と言って笑い、ごまかすように頭をかいた。
その時、「おーい、イファ!ちょっとこっちに来てくれ!積み上げられた荷物で道路が塞がってるんだ!」と、通りの向こうから誰かに声をかけられた。
「おっ、いま行きまーす!」
イファが、その男性に笑顔で応えると、リアの顔を見て「ひとりで帰れそうか? 道、わかる?」と聞いた。
リアは小さく頷いた。
「うん、じゃあ……気をつけて。また夕方、家でな」
そう言って、イファは駆け足で通りを抜けていった。
その背中は、すぐに人波にまぎれて見えなくなる。
目の前に広がる、にぎやかで、カラフルな光景。
果物や野菜、布地や細工物、魚に肉にスパイスたち。
「すごいだろ?」と、イファが横で笑う。
「見てみろよ。あれはオルレアンっていう焼き菓子。毎朝、焼くんだ。あっちは干し肉屋。ちょっと塩辛いけど、旅人に人気なんだ。あの奥が布屋で、その向かいに……」
人々の間をすり抜けながら、イファは市場の説明を続けていく。
リアはただ、その喧騒と色彩を、じっと見つめていた。
やがて、通りの一角に、木製の小さな屋台が見えてきた。
「ここがハーブ屋さん。母さんの言ってたやつ、たぶんここで買えるよ」
屋台の前には、乾燥させた葉や香草がずらりと並んでいた。
ミントにバジル、ローズマリー。爽やかな香りがふわりと鼻をくすぐる。
リアが近づくと、優しそうな店の女性が笑顔で声をかけてきた。
「いらっしゃい。あら……見ない顔だねぇ」
リアは一瞬、言葉に詰まった。
隣にいたイファが口を開く。
「俺の家で、母さんの手伝いをしてくれてるんです。……リア、自己紹介、できるか?」
リアはイファをちらりと見て、それから小さく頷いた。
「……こんにちは。リアといいます。……はじめまして。」
「まあ、まあ、可愛らしい子ねぇ。さて、今日は何をお探しかしら?」
リアはメモを取り出し、マリナに言われた通りのハーブの名前を読み上げる。
すると、店の人がハーブを器用に束ねてくれた。
リアはハーブの束を受け取り、少しぎこちなくも、丁寧にお金を差し出した。
「ありがとうね。気をつけて持って帰るんだよ。またいらっしゃい」
ニコニコと笑う店主に、リアは深く頭を下げた。
イファは、少し離れたところからその様子を見て、柔く目を細めた。
「リア、ちょっと待ってて!」
そう言い残すと、彼は向かいの小さな花屋に走っていった。
そこは、通りの角にある静かな店で、にぎやかな市場の中でぽつんと浮かぶようだった。
イファは何かを店主と話しながら、買い物をした。
リアのもとへ風を纏ったような足取りで戻ってくる。
「はい、これ」
「……?」
リアは差し出されたそれを、ゆっくりと受け取った。
白く、小さな花。
薄い花びらが、風にふわりと揺れた。
「……どうして?」
イファは少しだけ言いよどんでから、照れくさそうに笑った。
「リアが、喜んでくれたらいいなって思って」
リアは花を見つめ、小さく「…喜ぶって……?」とつぶやいた。
イファの目が泳ぎ、「いや、あの……おつかいができたから、だな! 頑張ったごほうびってやつ!」と言って笑い、ごまかすように頭をかいた。
その時、「おーい、イファ!ちょっとこっちに来てくれ!積み上げられた荷物で道路が塞がってるんだ!」と、通りの向こうから誰かに声をかけられた。
「おっ、いま行きまーす!」
イファが、その男性に笑顔で応えると、リアの顔を見て「ひとりで帰れそうか? 道、わかる?」と聞いた。
リアは小さく頷いた。
「うん、じゃあ……気をつけて。また夕方、家でな」
そう言って、イファは駆け足で通りを抜けていった。
その背中は、すぐに人波にまぎれて見えなくなる。
