それでも、この世界で、光を


ミナとリゼットと別れた帰り道、リアは一人、家へと続く坂を下っていた。

時計台から見下ろしたあの景色の余韻がじんわりと胸の奥に広がる。


──逃げずに、自分のことをちゃんと知りたい。


少しずつ芽生えはじめた決意は、まだ頼りない灯火のように揺れていた。

そのときだった。
柔らかな風が木々を揺らす音に混じって、静かな足音が背後から近づいてくる。


「……リア」


聞き慣れないようで、聞き覚えのある声。
ただ名前を呼ばれただけなのに、どこか胸をざわつかせる。

振り返った先に立っていたのは、セリオだった。

また、穏やかな微笑みを浮かべたまま、まるで偶然通りかかったかのように立っていた。


「驚かせたならすまない」

リアは、思わず一歩後ろへ下がった。
けれど、すぐに顔を上げ、セリオを見つめる。
ミナとリゼットに背中を押されて、知りたいという気持ちが少しだけ勇気をくれた。

「……こないだ言っていた、わたしが特別ってどういうことですか?」


その問いに、セリオは一瞬だけ視線を落とした。


「リア──今の君は、自分の過去を知らない」

「……」

唇の端を上げて笑う。

「少しだけ教えてあげよう。ただし、君は自分の目で真実を確かめなければならない。いずれ、その特別さゆえに、自分の意志で未来を選ばなければならなくなるからね」

「未来を、選ぶ?」

セリオは、ふぅ、とひとつ呼吸を落とす。

「君は、サンティス博士に命を救われた」

セリオの声は低く、優しい。
けれどその響きが、どうしてもリアの不安を掻き立てる。


「君の故郷は、ノアレという町だ。……三年前、君はノアレである事故に巻き込まれ、命を落としかけていた。記憶がないのも、その影響だろう」


語る口調は穏やかだったが、その奥に潜む重さが、静かにリアの胸にのしかかる。


「──サンティスは……そんな君を救った。」


サンティス。
その名を聞くたび、忘れていたはずのぬくもりが、心の深くからゆっくりと呼び起こされる。
目の奥がじんわりと熱を帯び、呼吸がかすかに乱れ始める。

そんなリアの姿を、セリオは真っ直ぐに見つめて言った。


「──神の力とまで呼ばれた、ルクシミウムの力を使って」


「ルクシ……ミウム……」



リアの視界がぐらりと揺れる。
足元が崩れそうになるのを、必死に堪えた。


「彼は、自分の研究と想いのすべてを、君に託したんだ……そして、彼は軍の手によって命を奪われ、この世を去った」

「なぜ……?」

「ルクシミウムは、人の手に余るものだったんだ。それを制御しようとしたサンティスのような者は、時として排除の対象になる」

リアは言葉を失い、ただ小さく息を呑むことしかできなかった。

「それでも……彼は最後まで、君を信じ、大切に思っていた」

セリオの声は、どこか遠くを見つめるような響きを帯びていた。

「君と博士が共に過ごした時間は、決して長くはなかった。けれど、あの短い日々の中で、君は、多くのことを感じ、学んだはずだ」

セリオはふと目を細める。

「君にしかできないことがある。君にしか知らないこともある。……ルクシミウムは、世界を救う可能性を秘めている。私は、その手助けをしたいんだ」

そして最後に、静かに告げた。

「サンティスは、君を私に託した。……私は彼と長年、研究を共にしてきた者として、君の行く末を見届ける責任があると、そう思っている」