それでも、この世界で、光を



「……なるほど」


やがて、ジュードは小さく息を吐き、机上の生ぬるくなったコーヒーを見つめた。

「ルクシミウム、か……」

「先生はよくご存知ですよね?」

カイが鋭く問いかける。

「断片的にね。私も軍医時代に、少し耳にした程度だよ。とはいえ、軍関係者の中にもルクシミウムの影響を受けた人が何人かいてね。自分なりに色々調べたんだが、正式な資料は上層部に封印されていて、詳細までは知らされていない」

ジュードは言葉を選びながら、静かに続けた。

「発見当時は、新世代のエネルギー源として大いに期待されていた。一方で、その莫大なエネルギーは“危険な未完成品”とも囁かれていたんだ」

「危険な未完成品……」

「もちろん最初は、科学者も我々国民も、この発見が、人間の生活を豊かにすると信じていた。しかし、このヴァストラ帝国との冷戦状態ではね。爆弾……つまり人を殺す道具として使えるのではないかと考える人もいた。国や軍が兵器として利用しようと動いたのも事実なんだ。……それが、抑止力となり、この戦争を早く終えることができるのでは、とね。でも、その“光”が何をもたらしたのか見てきた私には、到底、人の手に負えるものとは思えないんだ……」

「……父が残した記録にも、断片的に似た記述がありました」

イファが小さく呟くと、ジュードは優しく見つめる。

「そうか……君の父上は、ルクシミウムに関わっていたんだね……」

一瞬、部屋の空気が重く静まった。


「……問題は、今そのルクシミウムが、何らかの形で、再び動き始めている可能性があることだ」

わずかに声を落としてジュードが続ける。

「ただ、リアさんとの関係は、まだわからない。ルクシミウムは、あの事件以来、研究も使用も厳しく制限されているはずだからね」

イファは拳を握りしめた。

「断定はできないが──青白い光となると、ルクシミウムの可能性は高いと思う。ルクシミウムの影響で、嘔吐や下痢、血液障害が起きる人、後遺症で目に異常が出る人などがいることは近年の論文でも明らかにされている。ただ、リアさんの場合はね、記憶障害だ。ましてや青白く光るなんて症状は聞いたことがない。申し訳ないが、彼女の中で何が起きているのかは、今の私の知識では説明がつかない」

カイは腕を組み、小さく呼吸を落とす。

「やはり……」

「カイ隊長?」

イファが振り返る。

カイはゆっくり首を振った。

「……いや、何でもない。この件は慎重に情報を集めていこう」

その言葉には、緊張が滲んでいた。
イファが頷くと、二人を見ていたジュードが言った。


「リアさんには、今は無理をさせるべきじゃない。君たちの判断は正しいと思う。ルクシミウムとなると、わからないことが多すぎるからね」

「……はい」

「これから先、真実を知れば知るほど、イファくん、君自身の立ち位置も、考え方も、揺らぐかもしれない。何を信じて、どう選ぶべきか……その重さに、向き合うことになるだろう」

その言葉は重く、イファの心にしっかりと響いた。
イファは拳を握って頷いた。

「また何かあれば、いつでも訪ねてきなさい。私にできることがあれば、何でも協力する」


二人は、ジュードに丁寧にお礼をすると診療所を後にした。



じめっとした空気が肌にまとわりつく。

曇り空の下にはノースフィアの午後の町が静かに広がっていた。


イファとカイは無言で歩き出す。


胸の奥に、それぞれ新たな決意を宿しながら──