それでも、この世界で、光を

カイは立ち上がり、詰所の窓を閉めた。
雨の音が遠ざかり、空気が、しんと静まり返る。



「お前は、たしか、アルメリア出身だったよな?」


イファの心臓が跳ねる。


「はい……。」

「……なら、ノアレで起きた、ルクシミウムの事故のことは、知っているな?」

「……もちろんです。故郷に戻れなくなったのも、母の目が不自由になったのも……全部……」

イファはぐっと唇を噛む。

「そうか……」

「当時の記録を、軍にいた父が残しているはずです」

ふぅ、とため息をついたカイは、「一応、色々調べておく必要があるかもな……」と小さくこぼした。



うるさいほどの沈黙が襲う。


「……カイさん、リアのこと、疑っているんですか?」

カイは唇を歪めた。
真剣な眼差しがイファを刺す。

「可能性はゼロじゃない。ただ……」

その目は、確信に似た色を帯びていた。

「誰かがリアちゃんを追っている。その誰かは、ルクシミウムに絡んでいる。俺は、その可能性の方が高いと踏んでいる。あの悲劇の事故が再び起きないように、最善を尽くしたい。この街も、リアちゃんも」

カイは目を伏せ、また沈黙が部屋を包む。
その静けさを破るように、イファがぽつりと口を開いた。



「……カイ隊長。リアに、伝えた方がいいでしょうか?」


雨が屋根を叩く音が耳にさわる。
規則的な雨音が、部屋の中に重たく響いていた。


「リア自身に、これを……ルクシミウムのことを。彼女の身に何か危険が迫っているのなら、何も知らないままでいる方が危ないと思います」

イファの声には、迷いと焦りが滲んでいた。
カイは腕を組み、しばらく考え込むように視線を落とした。

「……そうだな。だが、懸念点もある。リアちゃんはまだ記憶が戻っていない」

「……はい」

「リアちゃんのことはもちろんだが、俺たちはこの街の全員のことを考えなくてはいけないからな。慎重に動く必要がある」

イファは拳をぎゅっと握りしめた。

「……でも、リアが、何も知らないまま、何かに巻き込まれていくことが俺は嫌なんです。やっと少しずつ変わり始めているのに……! 少しでも前に進めるように、支えてあげたいんです」

その言葉に、カイの瞳がわずかに揺れる。

イファは強く言葉を重ねる。



「守ります。リアも、この街も、絶対に」



少しの沈黙の後、カイはふっと息を吐いた。

「──わかった」


そして、机の上の探査機を一瞥し、ゆっくりとイファに向き直った。


「だが、慎重にな。まだ全部を話すのは早い。明日、一度リアちゃんをここに連れてこい」

「はい」

「リアちゃんの負担にならない程度に、今わかっていることを共有する。できるだけ柔らかく、だ。俺も同席する」


イファは深く頷いた。
カイはわずかに口角を上げ、頼もしげにイファの肩を叩いた。


「よし! リアちゃんに話すのと同時に、情報収集も進めよう。お前の親父さんが残した記録、マリナさんの話も参考になるかもしれん。それからジュード先生にも声をかけてみよう。あの人なら、ルクシミウムに詳しい可能性がある」


「はい!」


イファのその瞳の奥には、確かな決意が宿っていた。