雨の匂いが、ノースフィアの町にしっとりと染み込んでいた。
石畳の上を、警備隊の靴がゆっくりと音を立てて歩いていく。
カイ・ロウェルは詰所に入る前に、濡れた肩を軽く払った。
手には、森で拾った、あの探査機があった。
「カイさん、おはようございます。報告したいことがあって……」
扉が開く音とともに振り返ったイファの視線は、カイの手元へと移った。
「……なんですか、それ……」
カイは無言で、手にしていた探査機を机に置く。
雨で濡れたその金属の表面は、鋭く光を反射した。
「森の西のはずれで拾った。もう今は壊れているがな。例の動物の異変の件で、少し森の奥まで足を踏み入れたんだ。そしたら──こいつが落ちていた」
「森に……これが?」
イファは眉をひそめ、無骨な金属塊を覗き込む。
カイは椅子に腰を下ろし、慎重に話し始める。
「どう見ても、軍の正式装備じゃない。けど、コードがついていた。識別用だろうな。擦れていて読みにくかったが……ここに“コード・ルクス”って文字があったんだ」
「コード……ルクス……?」
イファは目を細め、顎に手を添える。
「なんか、聞いたことがあるような……」
「そして、探査機の記録には──火の中から現れるリアちゃんの姿が、はっきりと映っていた。燃え盛る炎の奥で、青白い光が脈打っていた。あれは──偶然ではない」
イファの目が泳ぐ。
一瞬にして、昨日の火事の記憶が鮮明に蘇った。
──揺れる炎。渦巻く黒煙。
そして、燃え盛るあの倉庫の奥から走り出てきたリア。
彼女はたしかに青白く光っていた。
「……まさか」
イファはぽろりと呟いた。カイの視線が鋭く向く。
「……言ってみろ」
「……昨日、町の倉庫で火事があって。そのとき、リアが……その、青白く光ったんです。ほんの一瞬でしたけど。胸のあたりが、ぼんやりと……まるで……」
続く言葉が出ないイファを見て、カイが言葉を落とす。
「まるで、“ルクシミウム”だと?」
声が低く響いた。
イファはそっと顔を上げる。
「……ルクシミウム……」
