それでも、この世界で、光を



そしてその夜。

町は静まり返り、遠くでフクロウが鳴いていた。

リアはベッドの上に起き上がり、窓の外をぼんやりと見つめていた。
心の奥に、昼間の感触が残っている。


──ぽわーって光って、かっこよかった


少年の言葉が頭にひびく。
煙の中。
少年の命を抱きしめた時、胸の奥からあふれた光。


確かにあった、青白くて、あたたかい、でもどこか恐ろしいほどの力。


そっと胸元に手を当てる。今は何も起きない。
けれど、そこにはまだ、じんわりと熱が残っている気がした。


自分が何者なのか、わからない。


「……あれは……なんだったんだろう」


その言葉が喉を離れた瞬間、急に視界がぐらりと揺れ、世界が少しずつ薄れていった。





気がつくと、リアは見知らぬ空間に立っていた。



白い部屋。無機質な照明。冷たい鉄の机。

息をすると、消毒薬のようなにおいが鼻を刺す。


目の前には、大きなガラス越しに研究者たちと思われる白衣を着た大人たちが何人も動いている。

その中心にいたのは、長い白衣を羽織った男だった。
鋭い輪郭の横顔に、柔らかそうな白銀の髪。
整った顔立ち。淡いヘーゼルの瞳がこちらを向く。

「……サンティスが残した──臨界値が……まだ……」

ノイズのように途切れる音。

「……心拍反応……通常より前に……生存システムを──」
「……ルクシミウムは……必ず……世界を……」


微かに拾えた単語は、リアの耳に強烈に残る。





──ベットから飛び起きた。


リアは汗ばんだ手で顔を覆い、荒く息を吐いた。


「……いまの……は……」


心臓が早鐘のように打っている。

夢なのか、記憶なのか、自分のものかどうかさえわからない。



けれど確かに、その男の声に、胸の奥が反応していた。
彼女はベッドに座ったまま、窓の外を見つめる。



「……サンティス……」



その名を、初めて口にした。

なのに、身体が覚えているようだった。

カーテンがかすかに揺れ、月の光がリアの瞳に淡く差し込む。
まだ、世界は月明かりの影に隠れていた。





──そしてその頃。


夜の森を、足音ひとつ立てずに滑るように進む奇妙な乗り物があった。
なめらかな繭のような白く光る外殻。

青白い光が脈打ち、細い黒のリングが繭の周りを自在に回転している。
その姿はまるで生き物のように、不気味に美しく霧の中を静かに漂っていた。


その操縦席に座っていたのは、ヘーゼルの瞳を持つ男。



彼の手元には、古びた分厚いノートがあった。


“Luximium #04”と書かれた表紙が、指の下でかすかに擦れる。


「……ついに、この時がきた」


白銀の髪をかきあげて呟く男の声は、夜の森に消えてゆく。
遠くには、ノースフィアの町の明かりが静かに揺れていた。