水祈の星灯も無事に終わって、数日がたった。
浮き足立っていた町の雰囲気も、いつもの日常に戻っていく。
リアはマリナと一緒に、町の診療所を訪れていた。
予約の時間より少し早めについたふたりは、ツンッとした独特の香りのする待合室で待っていた。
「マリナさーん! マリナ・エルネスさーん!」
名前を呼ばれ、白く塗られた木の扉を開ける。
出迎えたのは、深いグレーの瞳に銀縁の眼鏡をかけた男性で、物静かな笑みを湛えていた。
「こんにちは。マリナさん。おや、お隣の女性は?」
柔らかく落ち着いた声が響く。
「はじめまして。リア、と言います。数ヶ月前から、マリナさんのおうちでお世話になっています。」
「はじめまして。この診療所の医師をしている、ジュード・セイランです。よろしくお願いしますね」
あたたかみのある笑顔に、リアの緊張が少しずつほぐれていくのがわかった。
「リアさんが付き添ってくれるなんて、マリナさんは心強いでしょう」
「えぇ、ほんとにね。この子が一緒だと、なにをするのも安心なのよ」
マリナがそう言って笑う。
リアは、なんだか少しくすぐったくなり、そっと唇をかむ。
ジュードはカルテを確認しながら、ゆっくりと診察を始めた。
聴診器をあて、体の状態を丁寧に確かめていく。
「最近、寝つきや体調はどうですか?」
「ええ、以前よりずっと落ち着いているわ」
「それはよかった」
微笑んだジュードは、マリナの状態をカルテにしっかりと記載している。
そして、記録をまとめながら、ゆっくりと、口を開いた。
「以前にもお話ししましたが、マリナさんみたいに、ルクシミウムの後遺症を持つ人のデータはまだあまりないもので……なかなか、症状の回復や安定した管理が難しいかもしれません」
──っ!
胸を鷲掴みにされたようだった。
それは、うまく息ができないほどの痛みだった。
リアの指先が、震えた。
ジュードはカルテに視線を落としたまま、穏やかな声で続ける。
「まぁ、いまのところ睡眠や食事もしっかりとれているようですし、このまま定期検診を続けていきましょう」
「はい、先生。いつも、ありがとうございます。また、よろしくお願いします」
答えるマリナの隣で、動けずにいるリア。
冷たいものが首筋を伝う。
カルテに記入を終えたジュードは、顔を挙げ、リアの様子に気がついた。
「リアさん? どうしました? 大丈夫ですか?」
「……いえ、なんでも……。大丈夫です。」
リアは胸の内で、その言葉を何度も繰り返していた。
──ルクシミウム。
知らないはずの言葉なのに、なぜか、ざわつく。
視界の端がぐらりと揺れた気がした。
ジュードは、そんなリアの様子に静かに視線を送る。
「また、何か不安があれば、いつでもいらしてくださいね。リアさんも、ね?」
リアは乱れた呼吸を隠すように、小さく頭を下げた。
「……はい。」
リアの瑠璃色の瞳の奥で、微かに青白い光が揺れた。
診察室を出ると、マリナがリアに声をかけた。
「リア、大丈夫? ……どうかしたの?」
「……いえ、大丈夫です。」
リアは微笑みながら首を振ったが、手はまだわずかに震えていた。
「そう……よかったら、少し寄り道でもしていきましょうか? 帰りに、甘いものでも」
マリナのやさしい提案に、リアは小さくうなずいた。
浮き足立っていた町の雰囲気も、いつもの日常に戻っていく。
リアはマリナと一緒に、町の診療所を訪れていた。
予約の時間より少し早めについたふたりは、ツンッとした独特の香りのする待合室で待っていた。
「マリナさーん! マリナ・エルネスさーん!」
名前を呼ばれ、白く塗られた木の扉を開ける。
出迎えたのは、深いグレーの瞳に銀縁の眼鏡をかけた男性で、物静かな笑みを湛えていた。
「こんにちは。マリナさん。おや、お隣の女性は?」
柔らかく落ち着いた声が響く。
「はじめまして。リア、と言います。数ヶ月前から、マリナさんのおうちでお世話になっています。」
「はじめまして。この診療所の医師をしている、ジュード・セイランです。よろしくお願いしますね」
あたたかみのある笑顔に、リアの緊張が少しずつほぐれていくのがわかった。
「リアさんが付き添ってくれるなんて、マリナさんは心強いでしょう」
「えぇ、ほんとにね。この子が一緒だと、なにをするのも安心なのよ」
マリナがそう言って笑う。
リアは、なんだか少しくすぐったくなり、そっと唇をかむ。
ジュードはカルテを確認しながら、ゆっくりと診察を始めた。
聴診器をあて、体の状態を丁寧に確かめていく。
「最近、寝つきや体調はどうですか?」
「ええ、以前よりずっと落ち着いているわ」
「それはよかった」
微笑んだジュードは、マリナの状態をカルテにしっかりと記載している。
そして、記録をまとめながら、ゆっくりと、口を開いた。
「以前にもお話ししましたが、マリナさんみたいに、ルクシミウムの後遺症を持つ人のデータはまだあまりないもので……なかなか、症状の回復や安定した管理が難しいかもしれません」
──っ!
胸を鷲掴みにされたようだった。
それは、うまく息ができないほどの痛みだった。
リアの指先が、震えた。
ジュードはカルテに視線を落としたまま、穏やかな声で続ける。
「まぁ、いまのところ睡眠や食事もしっかりとれているようですし、このまま定期検診を続けていきましょう」
「はい、先生。いつも、ありがとうございます。また、よろしくお願いします」
答えるマリナの隣で、動けずにいるリア。
冷たいものが首筋を伝う。
カルテに記入を終えたジュードは、顔を挙げ、リアの様子に気がついた。
「リアさん? どうしました? 大丈夫ですか?」
「……いえ、なんでも……。大丈夫です。」
リアは胸の内で、その言葉を何度も繰り返していた。
──ルクシミウム。
知らないはずの言葉なのに、なぜか、ざわつく。
視界の端がぐらりと揺れた気がした。
ジュードは、そんなリアの様子に静かに視線を送る。
「また、何か不安があれば、いつでもいらしてくださいね。リアさんも、ね?」
リアは乱れた呼吸を隠すように、小さく頭を下げた。
「……はい。」
リアの瑠璃色の瞳の奥で、微かに青白い光が揺れた。
診察室を出ると、マリナがリアに声をかけた。
「リア、大丈夫? ……どうかしたの?」
「……いえ、大丈夫です。」
リアは微笑みながら首を振ったが、手はまだわずかに震えていた。
「そう……よかったら、少し寄り道でもしていきましょうか? 帰りに、甘いものでも」
マリナのやさしい提案に、リアは小さくうなずいた。
