それでも、この世界で、光を


広場から少し離れたところで、星灯籠の光が川を美しく彩っていた。


「──じゃあね、リア」

ミナがにこっと微笑んだ。

橋の向こうには、幼なじみの男の子が待っている。

「……ミナ、今日……会えてよかったです。ありがとう」

リアがそう言うと、ミナはふふっと笑って返す。

「わたしもよ。すごく楽しかったわ」

そのとき、橋の向こうの男の子がミナに気づいて手を振る。
ミナは、小さく手を振り返すと、リアの耳元でそっと言った。

「がんばろう、ね!」

リアは、小さくうなずいた。
夜風がふたりの髪をやさしく揺らす。

リアとミナは小さく手を振りあって別れた。

「……がんばってね、ミナ」

駆けていく背中に、ぽつり、と声をかけた。
その声は小さく、金色の光に溶けてゆく。





リアはひとり、星灯籠を抱えて川の方へと歩き出した。


川辺にはたくさんの光が揺れていた。
水面に浮かぶ星灯籠が、ひとつ、またひとつと流れていく。

祈りの言葉とともに、空へ、水へ、還っていく光たち。

リアは、ただ、その光景を眺めていた。
そっと両手で抱えた星灯籠に、静かに願いを込めて。


──ありがとう

──どうか、みんなが、笑っていられますように


水面に手を伸ばし、灯籠をそっと流す。
小さな灯りが、星降る川へと加わった。

言葉にならない想いのかけらが、胸の奥で優しくきらめいた。

そのとき、ふと視線を上げると、川の向こう岸で、ミナと彼が並んで笑っていた。
手には、それぞれの星灯籠。
ふたりで何かを語り合いながら、楽しそうに笑っている。

リアの胸に、ぽつんとあたたかい灯が灯った。

──よかった……

ミナの願いが、届いたのだ。



そのとき、花火が上がった。

夜空にひらく、大きな花。
川の向こうに見える湖面にうつる。
空と水面がつながって、目の前に見えるのは“星降る道”。


綺麗だった。


絵で見たものより、何倍も。

川辺には、たくさんの笑顔があった。
家族、恋人、友人同士。
みんな、それぞれに、誰かと手を取り合って、美しい光を見つめていた。



──ふと、自分だけが、そこにいないような気がした。



「……わたしは、いま、ひとり」


声は花火にかき消され、闇に消える。
胸の奥がきゅっとなる、あの不思議な感覚だった。

胸の奥の小さな、小さな痛みに、気づいたリアはゆっくりと目を閉じて、大きく息を吸う。
再び目を開けると、目の前に広がる光景は、ただ、美しく、頬をなでる夜風は、やさしかった。



花火が終わり、帰ろうと歩き出したそのとき──