その日、空は澄んだ青色だった。
白と青い旗が風に揺れ、星の飾りが町を彩る。
大地と空が繋がる、
一年でいちばん特別な日。
ノースフィアは祭りの朝を迎えていた。
いつものように洗い物をしていると、イファがリアの背中に声をかける。
「リア、ちょっとこっちに来てくれるか?」
振り向くと、イファが淡い青色の紙に白いリボンがかかる包みを抱えて立っていた。
リアが手を拭き、イファのもとへ行くと、彼は少し照れたように目をそらした。
「これ……リアに」
差し出された包みを手にとり、リボンをほどく。
淡い青色の包みからするりと現れたのは、雪のように白いワンピースだった。
胸元と袖口、スカートの広がる裾に繊細な金色の刺繍があしらわれていて、光を受けるたびに星屑のように煌めく。
「その……リアも、祭りを楽しめたらいいなって」
水祈の星灯にふさわしい、伝統的な装いだった。
「これを……わたしに?」
リアは思わず、目を見開いた。
「うん、町の仕立て屋のとこに頼んで、作ってもらったんだ」
イファは誇らしげにニカっと笑う。
リアは衣装をそっと胸に抱きしめた。
イファのまっすぐな気持ちをたしかめるように。
「……ありがとう、イファ」
その言葉に、イファは安心したように穏やかに微笑む。
すると奥から、マリナも小さな箱を持ってやってきた。
「そして、これも。リアに外出かけてもらっている間に、内緒で作っていたのよ」
「わたしに、ですか?」
マリナはふふっと笑う。
リアがふたを開けると、布でできたコサージュが姿を現した。
やさしい淡青と白でまとめられた花。
添えられたレースはキラキラと輝き、リアは目を離せなくなった。
「これ……髪飾り……」
「ええ。あなたに贈りたくてね」
マリナの指先が、花びらをそっとなでる。
「あなたが大切にしていた、あのお花がいつでもあなたの髪でまた咲けるように。
リアにきっと似合うと思って、心を込めてつくったの」
リアは胸に押し寄せてくる何かをそっと抱きしめた。
まだ、言葉にならない、何かは、喉を熱くした。
マリナは優しく微笑んで、リアの手を包み込む。
「あなたと一緒に過ごせる毎日は、私にとって、これ以上ない、幸せな贈り物よ」
リアはゆっくり、でもたしかに届くように、声を発する。
「……わたし、今日のこと、きっと、忘れません……」
「えぇ。わたしもよ。忘れられない素敵な一日に、なりますように」
やさしい祈りのような言葉が、朝の光にそっと刻まれた。
