夜が深まるとともに、部屋はしんと静まり返る。
冷たい空気の中、リアは、机の前に座っていた。
目の前には、白い便箋と封筒。
約束どおり、手紙を書こう。
そう決めてから、何度も書いては、破り捨てた。
ペンの先が空を泳ぐ。
──大切な人に、伝えたいこと
“ありがとう”
“あなたと出会えて、よかった”
最初に浮かんだ言葉は、やさしくてあたたかい。
でも、それだけじゃ足りない気がした。
どの言葉が正しいのか。
なぜ、ありがとうと思ったのか。
どうしたら、彼にちゃんと届くのか。
深く、息を吐いて。
また、ペンを置いた。
──昼間、あの子に言われた“ありがとう”
まっすぐ、だった。
「……ありがとう」
小さな声で、真似してみる。
「ありがとう」
今度は、さっきよりも少しだけ強く。
悩んで、考えて、そっと胸に手をあてた。
思い出すのは、昨日のイファの姿。
人に囲まれて、頼られて、忙しそうなのに、誰よりもまっすぐで、誰よりも誰かのことを思っていた。
そしてリアは、再びペンを握り、ゆっくりと書きはじめる。
丁寧に、慎重に、何度もためらいながら。
それでも、少しずつ書いていく。
風が鳴る、夏の夜。
眩く揺れる星たちは、ずっと、そんなリアを見守っていた。
