カイから頼まれた仕事はすぐに終わったが、その日は一日中、隊員たちと一緒に動いた。
灯籠の素材を詰所から運び出し、町を飾り付けて、屋台の設営に手を貸した。
手伝っていると、町の人に声をかけられることもあった。

最初はぎこちなかった挨拶も、少しずつ自然になってきた。



午後の終わり、陽が傾く頃。

イファは、警備隊の同僚たちに囲まれて、一生懸命に、でも楽しそうに仕事をしていた。
そんな姿をリアは、広場の端でベンチに腰かけながら眺めていた。

「おつかれさん、リアちゃんっ!」

背後からカイがやってきて、冷たいジュースの缶を差し出す。

「ありがとう、ございます……」

リアは少し驚きながら、それを受け取る。

「こちらこそ、ありがとうな。リアちゃんのおかげで、ずいぶん助かったよ!」

「……あの……わたしの“ありがとう”も、ちゃんと、届いていますか?」

その言葉に、カイは小さく瞬きし、意味を飲み込むと、ゆっくりと穏やかに笑った。

「ああ。ちゃんと、受け取ったよ」

リアは、安心したようにジュースを飲んだ。
冷たくて、火照った身体に染み渡る。



その様子を見ていたカイは、にっこりと笑い、リアに問いかける。

「どうだった? 警備隊の仕事」

リアは少しだけ考えてから、ぽつりと答える。

「……なんだか、町の中に、ちゃんと立っていられた気がしました。」

カイは、ふっと目を細めた。

「いい言葉だな。それがきっと、“町の一員になる”ってことさ。立つべき場所があるって、安心するだろ」

リアは頷き、ジュースの缶をそっと両手で包む。

カイはリアの隣に腰を下ろし、空を仰ぎながら言う。

「俺もさ、昔、この町の外から来たんだ」

リアは目を丸くする。

「……意外、でした」

「だろ? やっぱりな、“ここに居ていい”って思えるまでには、誰だって少し時間がかかるもんなんだ。
 探すんじゃなくて、少しずつ作ってくもんさ。大事なのは、慌てずに、ゆっくり育てていくこと。
 ひとりで全部抱えなくていいし、そばに誰かがいてくれたっていい。
 そうやって、根っこが伸びていくんだ」

リアはゆっくりとその言葉を噛み締めた。

「……カイさんも、誰かに“居ていい”って言ってもらったんですか?」

カイはニヤリと笑って答えた。

「そりゃあ、ここの町長よ! “お前、ガタイもいいし、声がデカいからちょうどいい”って言われてな!
 あの人、見かけに似合わず豪快でさ! まぁ、そのラフさがいいんだけどな!」

楽しそうなカイにつられて、リアの口角が少し、上がる。
その笑顔をしっかりと捉え、カイはゆっくりと瞬きをした。

「大丈夫だ。きっと、リアちゃんの気持ちがみんなに伝わって、ちゃんと、変わっていくよ」



夕暮れの風が吹く。

一日日頑張った身体をいたわるように。



世界が淡い金色の光で包まれていた。





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さらっと深いこと言っちゃうカイさん……かっこいい……!

リアも少しづつ居場所を作っていけたらいいなぁ。
母のようなきもち……!笑

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