「──来週だよ、水祈の星灯」
制服のベルトを締めながら、話すイファはどこか忙しない。
ゆっくりコーヒーを飲む時間もないようで、朝食時に少し飲んだそれは、すでに冷めていた。
そんなイファを横目に、リアは首を傾げた。
「すいきの……せいとう?」
「ああ。町で一番大きな祭り。水の精霊に感謝して、星灯籠を流す祭りなんだ。きれいだよ」
イファはそう言って笑ったが、顔に少し疲れが見えた。
「だからさ、この時期は、いつもに増して警備隊は準備で忙しいんだ。舞台の設営やら、設備の点検やら、町の見回りもいつもより強化されて……祭り関係の手続きに困ってる人も毎年いてさぁ……」
靴を履き終えたイファは、「よし……」小さく息を吐き、立ち上がる。
そしてリアの方へ振り返ってニカっと笑った
「リアは初めてだもんな。きっと、すごく気にいるよ」
息子の疲れを声で感じ取ったのか、マリナがそっとイファに声をかける。
「忙しそうね、イファ。あまり無理しすぎないようにね。気をつけていってらっしゃい」
「うん。行ってくるよ」
イファが家を出ていくと、マリナはふう、と小さくため息を漏らした。
「……あの子、人のことになると頑張りすぎちゃうところがあるのよ」
頬に手を添えて言葉を落としたマリナは、微笑んで続けた。
「心配しすぎかしら? だめね……親っていつまでたっても子供のことが心配なの……」
リアは、わずかに首を傾げる。
マリナの気持ちを理解したかった。
何か、声をかけてあげたいと思った。
しかし、リアの口は動くことがないまま、マリナが手をポンと叩いた。
「……さて。わたしはちょっとやることがあるの。申し訳ないのだけれど、リア、少し家を空けてくれるかしら?」
