──同時刻
とある町──アルメリア

“あの日”から三年。
かつて鮮やかだったこの町に、人の気配はもうどこにもない。


白い繭のような乗り物が、荒れ果てた景色の中で場違いなほど静かに佇んでいた。
そのすぐそばには、地下へと続く階段。

──アルファ・コア研究所。

壁には焼け焦げた痕が残り、黒く断ち切られたコードが垂れ下がっている。
沈黙した研究施設の奥で、乾いた金属音が響いた。

ドンッ。

こぶしで叩かれたテーブルが鈍く軋む。

「ヴァストラ帝国が軍備を拡大しているんだぞ! 我が国の未来がかかっているというのに……いつまで待てと言う!」

怒声を上げる軍服の男。その周囲を、同じ制服の者たちが固めていた。

対照的に、彼らの中心に立つ白衣の男は、ひどく落ち着いていた。
白銀の髪をかきあげ、細い指先でモニターのひとつを軽く叩く。
そこには、銀色の髪の少女が映っていた。

「……ええ。今はまだ、待つ必要があるんです」
白衣の男は、柔らかく微笑む。
けれどその声はどこか薄い。

「安心してください。私は──あの人のような失敗はしませんから」

「はっ! 検体を逃したくせによく言う!」

軍服の男が吐き捨てるように言うと、白衣の男の瞳がかすかに光った。


──感情というのは、厄介なものだ


モニターの少女を見つめたまま、彼は続ける。

「居場所はすでに分かっています。ですが……今はまだ、こちらから手を出すべきではない」

「なぜだ!」

「ここでの充填では不十分だったのです。だからこそ、自由にしてもらわないと……ね」

白衣の男は、ゆっくりと口角を上げた。