帰宅すると、マリナがいつものロッキングチェアで編み物をしていた。

「おかえりなさい、リア。ありがとうね、おつかい」

「……マリナさん。私は、町の人たちに……怖がられているのでしょうか。」

マリナは手を止め、ゆっくりと顔を上げる。

「……なにか、あったの?」

リアは、中年の女性に言われた言葉とハーブ屋の店主の話をした。
マリナは黙って、頷きながら、リアの話をすべて聞いた。

そして、ふうっと小さく息をつく。

「……そうね。きっとその人はね、あなたのことを知らないから、怖いのよ」

「知らないから……?」

「人ってね、自分の知らないもの、自分と違うものに、不安や恐怖を覚えるの。たとえそれが、リアのように、優しくてまっすぐな子でもね」

マリナはそっと、リアの銀色の髪を撫でる。

「でもね、リア。怖がられるのは、あなたが悪いからじゃないの。
人がわからないことを怖がるのは、どうしようもないことなのよ。だからこそ、少しずつ知ってもらうの。焦らなくていいわ。笑ったり、挨拶したり、リアが自分らしくしているだけで、きっと伝わる日が来るから」

リアはゆっくりと頷いた。

「……でも、少し、胸の奥がヘン、でした。」

マリナは、リアの手を両手で包み込むように握りながら、言った。

「それはね、リアの心が動いた証拠よ。悲しい、とか、嫌だなって思えたことは、リアをまたひとつ、豊かにしてくれたわ」

リアは、しばらく黙り込んだあと、ゆっくりと言葉を紡いだ。



「……わたし、ちゃんと、ここに、いますか?」 


マリナは、くしゃっと笑う。


「ええ。ここに、ちゃんといるわ」


その言葉は、リアの胸にすっと落ちた。
そして、リアの胸の奥に、名前のつけられない感情がゆっくりと灯っていく。

ほんの少しずつ。
少女の世界が、広がっていく。