二人は景色を眺めながら会話を交わし、持ってきたサンドイッチを食べ終えた。
優しい時間が二人を包む。
木々が風に身をまかせ、陽の光は遊んでいるように木漏れ日をつくる。

リアの視線は遠く、でも穏やかだった。



しばらくして、ぽつりとリアが言う。

「……森って、怖い場所だと思っていました。」

「うん」

「走っていたんです。何かに追われてた気がする。何を探してるのかもわからずに……でも、早く、早くって。……ただ、逃げていました。たぶん、ずっと。」


リアの声は、静かで、自分自身に語りかけてるようだった。


そして、少し、寂しげだった。


イファは、ゆっくりと呼吸をしながら、ただ隣で聞いていた。




風が吹く。花が香る。
湖面はキラキラと輝き、音もなく揺れる。
鳥の影が、湖の上をすべっていく。


リアはふっと視線を下ろして、言った。


「毎日、うまく、できないことばかりです。何が、正しい、のかもわからない。でも……今はただ、こうして生きていられて、よかったって思っています。世界には、こんなに美しいものがあるって、知れたから。」


イファは、静かにリアを見つめる。リアの瑠璃色の瞳が微かに揺れていた。


「リア」

「……?」

「あの白い花はさ……よくできたからっていうのも、もちろんなんだけど……」


リアは目をぱちぱちさせて、首を傾げる。
イファはリアの吸い込まれそうな瞳をしっかり捉えて言った。




「リアが、この世界にいてくれて、うれしいんだ」




その言葉に、リアの瞳が大きく揺れる。
瑠璃色の瞳の奥で、眩い金色の光が走る。

一瞬、彼女の表情が、ふわりとゆるんだ。



「……あ」


イファが目を丸くする。


「笑った……」


リアは、少し驚いたように自分の口元に手を当てて、そして小さく、もう一度笑った。

「……なんだか、あったかいんです。ここ……」

リアは、自分の胸のあたりに手を置く。
大きく深呼吸をして、そっと視線を落とした。


「……あたたかくて心地がいい。……きっと、これが、うれしいって気持ち……。」


それを聞いて、イファもまた、そっと微笑んだ。

爽やかな春の日差しが差し込む。
風は湖を揺らし、花はたおやかに咲く。


世界は何も変わらない。
けれどたしかに、少女の中に新しい風が吹いた。





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ついにリアが笑いました〜!!
笑えるようになってよかった……!

美しい森と湖の景色を見ながらイファとリアの距離がグッと縮まるこの第10話大好きで……!!
「銀色の髪に瑠璃色の瞳のリアが、ふわっと笑ったら綺麗だろうなぁ〜
イファ、よくしっかりリアの瞳を見てられるな……絶対恋に落ちちゃうじゃん!」
なんてニヤニヤしながら描きました(笑)


もう少しほのぼのイファとの共同生活?が続きますが、
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次は11月27日(木)22時です。


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