朝霧の森を抜け、ようやくノースフィアの町が見えてきた。
小さな田舎町だ。

イファの腕の中の少女はまだ目を覚まさない。



彼の住む家は、小さな丘のふもとにある古い家だった。
壁は少し色あせ、屋根もところどころ歪んでいたが、庭の木には果物が実り、小鳥の声が響いていた。

イファは、家の前で一つ呼吸をして、ドアを開ける。

「あら!早かったわね……」

穏やかな笑顔が、一瞬で変わる。
イファの母、マリナはほとんど目が見えない。
白く濁ったその瞳は、ぼんやりと光を感じる程度で、視野の一部は完全に失われていた。

だがそのぶん、耳も鼻も鋭く、息子が誰かを連れて帰ってきたことにすぐ気がついた。

「まあ…女の子かしら?」

マリナが笑顔で迎えると、イファは申し訳なさそうに頭をかいた。

「森で倒れてたんだ。冷たくなってて……。俺……ほっとけなくて、それでっ」
「まぁまぁ……それは大変だったわね。わたしのベッドを使って。まずは、あたたかいお湯を沸かしましょう」