イファは袖をまくり、材料を計りに乗せる。
マリナがそれを混ぜて、ひとまとまりになるまでこねると、小さな山になった。
ボウルの中で、最初はべたついていた生地が、少しずつ弾力を持ちはじめる。
「ねぇ、まとまったきたでしょう? ほら、リアも一緒に!」
なんだか嬉しそうなマリナを見て、リアも袖をまくった。
白い粉が舞う。
小麦と水のぬるりとした感触が指先を包む。
「そうそう、手のひらの根元で押して、それから……くるっと折りたたむんだよ」
手のひらが、あたたかい。
「……こう、でしょうか?」
「うんうん、できてるよ。でも、もう少しこうやって…」
隣で教えてくれるイファの手つきを真似てみるが、思ったより力加減が難しい。
「心を込めてね。おいしいパンがきっとできるわ」
少しずつ、ほんの少しずつ、手の中の生地が、まとまり、ふっくらとやわらかくなっていく。
リアは無心で、あたたかなそれをこね続けた。
「次は発酵ね」
それぞれがこねた生地をボウルに入れて布巾をかけ、マリナが「しばらく休ませましょう」と言ったとき、室内はふわりとした静けさに包まれた。
