数日が経ったある日、小さな瓶に飾られていた白い花は、うつむいて元気をなくしていた。

少し乾いた花弁は、もう透き通るような白さを失っている。
光の中で咲いていた昨日までの姿が懐かしい。


リアは、その花を黙って見つめていた。
まるで何か、大切なものが静かに失われていく瞬間を、じっと見届けているかのように。

そんなリアの隣にマリナがそっと立つ。

「……枯れてしまったのね」

リアは小さく頷いた。

「はい。……昨日までは、咲いていたのに。」

指先で触れようとして、そっと手を止める。
どうしてか、触れてはいけないような気がした。

「花の命は短いです…。」

「そうね。綺麗に咲くお花も、いつか必ず、死んでしまうわ。強く、美しく咲いて、そして……終わりを迎えるの」

リアはマリナの言うことを理解しようと、再び白い花へ視線を移す。
その瞳の奥は、かすかに揺れていた。

「どうして、死んでしまうのでしょうか?……こんなに、綺麗なのに。」

マリナは、リアの隣にしゃがみ込んで、ゆっくりと語りかけた。


「それはね……命には、終わりがあるからよ。終わりがあるからこそ、咲いている瞬間に輝けるの」



「……輝く……」



マリナの言葉を反芻するように、繰り返す。


「ええ。ずっと咲き続ける花なんてないし、人だって誰も、永遠には生きられない。でも、だからこそ、今咲いている、その姿が美しく、愛おしいのよ。限りあるものは、時として、無限よりも素晴らしい」



リアはその言葉を、時間をかけて何度も心の内で繰り返し、静かに心に落としていく。


「イファがくれたこの花…とても、とても、きれいでした。」


「ええ。とても大切にお世話をしていたものね」

穏やかに微笑むマリナは、花瓶からそっと一輪の花を取り出し、リアに手渡す。

「お別れのときは、自分の手でしてあげて。そうすれば、次の何かを受け取る準備ができるから」

リアはゆっくりと頷いて、その花を胸に抱えた。



「……この花に名前はあるのでしょうか?」


「この花はね、アネモネというのよ。ギリシャ語で、風、という意味なの。風に揺れて咲き、風に運ばれて種を残し、また新たな場所で花を咲かせる」

リアはそっと視線を落とす。

「お花にはね、それぞれに花言葉という託された意味や込められた思いがあるの。白いアネモネの花言葉……いつか自分で見つけられるといいわね」

力なく手に収まる小さな花。
その言葉を胸に抱くように、柔らかく風に揺れた白い花びらを思った。