「春日井、マジでバイトしてんだね」
「そっちこそ、マジで反抗期やってるんだね」


形式的には店員と客、という形を保ちつつも、小さな声で軽口を叩き合う。互いに片笑みを作って微かに笑いあう。

ささやかなやりとりの合間に、森崎くんの側でバイブ音が鳴る。

森崎くんは震え続けるスマホを取り出すと、その目に微かな苛立ちと呆れを滲ませた。


「見てこれ。今日も鬼電」


彼が持ってきた炭酸飲料とアイスをレジに通す私に、差し出されたスマホの画面。


「まったく、反抗期も楽じゃねーよ」


その画面には母の文字。私はどう反応するのが正解かわからず、「お疲れ様です」と謎の定型文を告げた。

予想外の返しだったのか、彼は目を丸めたが、すぐさま「だろ?」と目尻を垂らして笑って見せた。


「⋯⋯なあ、バイト何時まで?」
「13時」
「お、もうすぐじゃん。じゃあ、昨日教えてもらったとこで待ってるわ」
「え? あ、うん」


さらりと取り付けられた約束に戸惑いながら会計を済ませる。

森崎くんは購入したものを片手に収めると「じゃあとで」と陽気な笑顔を見せて、出口へと去っていく。


「ありがとうございました」


口ではマニュアル通りの言葉をなぞりつつ、森崎くんについて考える。

遅めの反抗期を迎えたにしては、彼は相変わらず愛想が良いし、人当たりも良い。

反発心が強く、暴力的な言動の目立つ反抗期とは正反対、つまり、良い人だ。


(反抗期って、なんだっけ)