そう言って森崎くんは手元にある2本あるうちの1本の炭酸飲料を私に差し出した。「えっ」と困惑して、彼を見上げる。その姿は中学の頃よりもさらに背が伸びて、精悍さが増している気がした。

私は男の人の存在が身近にない分、その変化を妙に不思議に感じてしまう。


「起死回生のお礼」


その言葉と共に、炭酸飲料をぐっと押し付けられて、私は結局、それを受け取った。

「ありがとう」と溢した声と、森崎くんがペットボトルのキャップを捻るのがほぼ同時。プシュ、と炭酸特有の音が、うだるような暑さの中に、束の間の清涼感を連想させる。


「ここらへんってコンビニもねーのな」


喉を潤した森崎くんが、目を細めて周囲の様子を眺めながら言う。

彼の言う通り、このへんには何もない。

田んぼや家々が大きな間隔をあけて並んでいる他、雑草が生い茂る広めの公園を突っ切った先に、学習塾のビルがあるだけだ。無人の最寄り駅はさらに遠い。


「なーんにもないよ。ていうか逆に、なんでこんなところに森崎くんがいるの?」


森崎くんの居住区は、田舎にしては少し栄えている主要道路沿いの近くなはずだ。

最近、その近くに大型のショッピングセンターができたことで、まずこんな辺鄙な場所に位置するスーパーへ買い物に来る同年代はいない。しぶしぶ親の付き添いで、というのが稀にあるくらいだ。

私の問いに、森崎くんは意味ありげに唇の端を片方だけ持ち上げた。


「ちょっとね、今日から遅めの反抗期(、、、、、、)やらしてもらってるんだよね」