土砂降りを見て私を思い出すなんて、いったいどういうことだろうか。

森崎くんは、困惑する私の顔を見た。

ぼんやりとしていた目は、今度こそ私を捉える。

そうして私と目が合うと、森崎くんは少しだけその頬に含羞の色を見せた。

私がその意味を掴めないまま、彼は話し出す。


「中学の頃って、大雨になると迎えに来てもらう奴らで昇降口がいっぱいになるじゃん」


森崎くんの視線が不意に落ちた。

過去を辿るように言葉が紡がれるたび、その目から光がすうと抜けていく。


「俺も、雨ん中帰るのだるすぎて、母親によく迎えに来てもらってたけど、」


私も数年前の記憶を辿る。

曇天に雨。濡れた窓。湿った匂いのする廊下。靴箱から昇降口に溜まるセーラー服と学ラン。バサっと開く傘の音。雨に文句を垂れる声。昇降口前のロータリーに次々とやってくる車。乗り込んでいく制服たち。自分の靴に足を通すと、まだ湿っている、あの、感触。

記憶と共に当時の感情がぶわりと浮かんで、仄暗い気持ちになる。


「でも、毎回、どんな天気だろうが、部活のあとだろうが、委員会のあとだろうが、歩きで――自分の足で帰ってるやつがいてさ」


私の気持ちとは裏腹に、森崎くんの声は真っ直ぐと、まるで雲の隙間に光が差したときのような、光芒を目にしたときのような、揺るがぬ強さを持って紡がれた。


「いつも車で通り過ぎるとき、気づいたらそいつのこと絶対に見てた」


そいつ、と敢えて名を伏せたくせに、森崎くんは私の顔を見つめて、ふっと口元を緩めた。

その目に映る私は、きっと曖昧な表情をしている。

けれど、森崎くんは今の私越しに、過去の私を見ているようだった。

車の窓を隔てた先で、どんな悪天候だろうと歩いて帰る私を。