こんなに喋ったのは久しぶりで、私は酸欠に近い状態のまま肩で呼吸を繰り返す。頭はすでにパンクしてショートしていた。

また失敗したのは確かだった。悔しかった。


「ぶはっ」


それなのに、私とは対照的に、森崎くんは声をあげて笑った。


「あはははっ」


力が抜けたように、お腹を抱えるように身体をくの字にしたり、逸らしたりして、笑った。

彼の頭からキャップが落ちた。それも構わずに、顔に痣のある森崎くんは、夜の公園の脇道で、げらげらと笑っている。

その光景に、なんだか拍子抜けして、私も思わず口元が緩んだ。


「ふへっ」


ふたりで笑う。互いの笑い声に釣られて、また、笑う。

苦しいぐらいに笑って、落ち着きかけては、また思い出して笑う。

森崎くんはひいひい言いながら、目尻を指先で拭う。その姿が、笑いながら泣いているようにも見えた。


「はーあっ、もうどうでもいいや」


森崎くんのその言葉は、憑き物が落ちたかのような、そんな笑いに溶けた一言だった。

私が心の内で安堵の息を零せば、森崎くんはそんな内心を知ってか知らずか、茶化すような声色で続ける。


「マジで9割何言ってるのかわかんなかったけど、こんな必死な春日井見れたからもうなんでもいーや」
「えっ」


自覚はしていたけれど、いざ相手に指摘されるとはまた心持ちが変わってくる。

私が困惑した顔になると、森崎くんはそんな私にも、またそれにも笑いを見せた。


「おし、帰るか」


森崎くんは軽快な声と共に、落ちた帽子を拾い上げた。


「うん」


私は頷いて、自転車を押す。からからと車輪から変な音がする。森崎くんが私の隣を歩く。

蛙の合唱に蝉の鳴き声、犬の遠吠え、遠くでは車のクラクションが聞こえる。

先ほどまで笑いあっていたせいか、やけに静かに感じる。


「なあ、春日井」
「ん?」
「⋯⋯ありがとな」
「うん」