「私は、今の森崎くんも中学の森崎くんも、すごいと思ってる、本当に。だけど、森崎くんが大事にしたいのが、今の森崎くんなら、私は私による、独断と偏見で、私なりに、応援したい、と思ってる、わけで、」
勢いのままにぶつけた言葉は、途中で失速して絡まった言葉が途切れ途切れに、もつれて絡まって、空まわって、森崎くんに向かっていく。
見切り発車でも何でも、今、言わなきゃと思った。
でも、また、失敗してしまいそうだ。悔しい。
言葉ひとつ上手く伝えられない。
何が言いたいのか自分でもわからなくなっていく。
「だからその、あの、森崎くんはもう森崎くんであるだけですごいんだけど、なんていうか、こう、なんかこうっ、さ! 今の森崎くんがださいとか、ださくないとか、そういうのじゃなくて、私は、中学の森崎くんのこと正直わかんないけど、でも、今の森崎くんのことはちょっと、少しだけ知ってて、いや、知ってる気になってるだけかもだけど、それでも、私なりに⋯⋯だからっ」
もう途中で放り出してしまいたい。
でも、そんなことはできなかった。
私の言葉を受け取ろうと、私を見つめていた森崎くんが、今にも泣き出してしまいそうに見えたから。
だからといってこのままでは何が伝えたいのか、自分でも混乱するばかりだ。
身振り手振りばかりが大きくなっていくその最中で、森崎くんの手元で、ぽたりと垂れたものを見つける。パピカの蓋部分からアイスが溶けていた。
「私はっ、⋯⋯私はね、今の森崎くんの前でなら、遠慮せずにパピカの蓋の部分のアイスを食べられるんだよ⋯⋯っ!」
突然、話の舵を大きく切った私に、森崎くんが思わず呟く。
「⋯⋯は? どういうこと⋯⋯?」
「うっ、」
本気で困惑している森崎くんを眼前に、私は自分の発した言葉をもうすでに悔やんでいた。
いつもなら、ここで挫けて、「なんでもない」と笑ってなかったことにしていた。
でも、森崎くんは、きっと誰にも見せたくなかったはずの痛みを見せてくれたのだ。
それならば、私も恥ずかしさを飛び越える言葉を贈らなければフェアじゃない。
「なんていうのかな、中学の頃の森崎くんの前では、ちょっとこう、食べるか食べないか迷って、いややっぱりやめとこうってなっちゃいそうかもしれないわけで」
「いや、食いたいなら食えばいいじゃん」
「森崎くんがそう言ってくれることも加味した上で、やっぱり食べれないと思う、うん、たぶんそうだったと思う」
真剣な顔で鼻息荒く言い切った私に、森崎くんはやっぱり困惑しながらも、気圧されたように「そ、そっか」と首を縦に振った。
頭が沸騰したようにぶくぶくと言葉が浮かんでは口にする前に霧散してしまう。
「だから、なんていうか、あのね、私が言いたいのは、森崎くんは自分らしくっていうか、思うがままに、ずっと我慢してきたんだから遅めの反抗期ぐらいお釣りが返ってくるっていうか、」
悔しくて歯がゆくて、地団駄を踏みたくなる。頭を掻き毟りたくなる。
森崎くんにちゃんと伝えたいのに、自分が言いたいことが口に出すたびにどんどん遠ざかっていくようで、私はとうとう耐えきれなくなって、叫んだ。
「人間なんてださいぐらいがちょうどいいと思う⋯⋯!」
結局、威勢だけだった。口に出したことの九割は意味不明だ。
