「⋯⋯何、買おうとしてるの」
「とりあえず炭酸を」
「だったら今日は二ツ矢サイダーが特売だよ」
私が自動販売機横にある店の出入り口を指させば、森崎くんは素直にそちらへ顔を向ける。
「しかも店の中は天国だよ」
本来であれば旧友との邂逅に懐かしむところだが、あいにく私も森崎くんも互いにこの猛暑に思考をやられていた。災害級の暑さは人を正常の道から外す。
森崎くんが再び私を見たタイミングで、私は小さく頷いて言った。
「生き返るなら、今しかないと思う」
「生き返る⋯⋯」
森崎くんは私のふざけた言葉をそっと繰り返す。
彼の噛みしめるような口ぶりに、私は「自分を取り戻せる場所だよ」なんて、頭が回らない中でひらめいた言葉で、彼に謎の追い打ちをかける。
「そっか」
森崎くんが不意に俯いた先で、ぽつり、と呟いた。
下を向いていても、彼は背が高いので、私が少しだけ顎を引いて様子を伺えば、わずかにキャップの下の表情を盗み見ることができる。
森崎くんは、唇の端をわずかに上げていた。その様子を見つめていると、顔をあげる途中の彼と目が合ってしまう。私は盗み見ていた気まずさから、視線を逸らそうとした。
「春日井お前、俺の救世主じゃん」
けれど、森崎くんのその言葉に視線は絡め取られて、再度、彼へと引き寄せられる。彼は、キャップのつばを上げると、八重歯を覗かせて無邪気に笑っていた。
