中学の入学式から卒業式まで森崎舜という人は学校の中心人物だった。

体育祭でも文化祭でも常に目立っていて、頭も良いし、運動もできるのに冗談が上手くて、嫌味がなくて気さくだから友達も多い。

中2の頃は中3の先輩と付き合っていたという噂も聞いたことがあったし、中3になったら後輩の子たちにまでモテモテで、バレンタインにはいろんな学年からチョコをもらっていたという話も耳にしたことがある。

まるで彼と友達というだけで自慢のような存在だった。みんな森崎くんに憧れていた。私も遠目で見ていたうちのひとりだ。


(でも、もしも、勇気を出して話せていたら、もしかしたら、もっと早く、何か少しでも、森崎くんの力になれることが、あったんじゃないか)


そんなことはないとわかっていても、そう思ってしまいたくなる。

星だと思っていたものが目を凝らしてみれば飛行機だったように、本来の彼も違っていたのかもしれない。

今になって、そう気がついた。

遠目で見るその人は、その人の一面に過ぎないのだということを。


「中学生の森崎くんとも、もっと話してみたかったな」


だからつい、そんな思いが口をついて飛び出した。


「やだよ、絶対」


だけど、森崎くんの返事は素っ気ないほどに簡潔で、強固だった。

あまりにもさらりと返された言葉に、私は悲しさよりも先に驚きがやってくる。

目を瞬かせて、隣を見れば、薄暗い夜の中で、森崎くんは私から顔を背けていた。

車の通りのない道路へと顔を向ける森崎くんの、頼りのない声だけが聞こえてくる。


「⋯⋯中学の俺と話したら、きっと春日井は俺みたいな薄っぺらい人間なんてすぐ見抜いて、嫌いになってたと思う」


氷が溶け始めている。

アイスがただの液状になりつつある。

これを再びアイスに戻すには凍らせるしかないだろう。

でも、凍らせたところで、最初のものと全く同じにはならない。

森崎くんは、すでに食べ終えていたアイスの容器を手にしたまま、自嘲のような息を吐いた。


「なんだこいつ、偽物じゃんって」
「⋯⋯そんなこと、ないよ」
「でもきっと、今みたいにはなれてなかったと思う」


森崎くんの、まるで自身を傷めつけるかのように落とされた嘲笑に、私は視線を落とした。

川の流れに沿って進んでいたはずの対話は、いつの間にか行き止まりになっていた。

手入れの行き届いていない歩道には、アスファルトの割れ目から緑が飛び出している。


(⋯⋯失敗、しちゃったな)


私はいつだって言葉の使い方を間違えてばかりだ。

森崎くんを傷つけたかったわけじゃないのに、いつの間にかその流れに行きついてしまっている。

伝えたかった本当の気持ちが、相手に伝わらない。

それどころか自分が意図していないところへ着地してしまう。


(なんでこんなに話すって難しいんだろう)


公園を突っ切れば駅までは近い。けれど、お互いにそうしなかった。

ぐるりと公園の周りを回るようにして、遠回りを選ぶ。

ささやかな、抵抗にも満たない抵抗。