日が落ちたからこそ嗜める甘味だ。

私はその甘みに頼りながら、ずっと違和感を抱いていた気持ちをすっと声に出してみる。


「自意識過剰だって思われたくなくて、ずっと誤魔化してきたけど、男女で一緒にいるだけで周りの人たちがすぐに恋愛に結び付けてくるのが、なんか、昔からよく、わかんなくて、なんでそんなことにこだわるんだろうってずっと思ってて」


男女がふたりでいるだけで、すぐに恋愛と結び付けられる。

中学生にもなると、周りはみんな好きな人の話や、彼氏の話、誰それの彼女の話、なんて自分とは関係ないところまで恋愛について話したがる。


「うん、わかる」


森崎くんが共感してくれたことがうれしかった。

周りはみんな恋愛を語るのが好きだと、それが普通のことだと、そう思っていたからこそ、独りよがりだと思っていたその感覚を共有できることが、うれしかった。


「そもそも好きとか付き合うとか以前に、私は、男の人がよくわかんなくて。小さいころから身近にいなかったし、お父さんに捨てられたっていうのは、今でもずっと心のどっかにあるし」
「⋯⋯そっか」
「うん。だから店長が『お友達?』って訊いてくれたのがうれしかったし、」


駐輪場に着き、私は自転車を押して森崎くんの隣を歩く。


「森崎くんも同じふうに思ってくれてるのがわかって、うれしい」


からからから、と経年劣化によって進むたびに音を立てる車輪の音がふたりの足音に紛れこむ。


「だからその、なんていうか、ありがとう、ございます」
「⋯⋯俺のほうこそ」


森崎くんの掠れながらも柔らかな返事が、私の耳に届く。

自転車を押しながらアイスを食べる私と、その隣で同じものを食べる森崎くん。

体内に浸透した甘さと冷たさが、夜のじんわりとした暑さを溶かしていく。

また、ふたりの間に静かな沈黙が続く。

決して気まずいわけではないけれど、森崎くんの気持ちがあの日から沈み切っているのがわかっているからこそ、そこを脱しきれない歯がゆさが残る。

なんとなく見上げた先に光るものを見つける。

暗闇の中で確かに光っているから、星だと思ったけれど、じっとその様子を見つめていると確かに明滅を繰り返しながら左へと動き続けていて、飛行機だとわかる。


「でも、中学の私に『森崎くんと友達だよ』って言っても、信用しなさそうだなあ」


ふふ、と小さく笑いながら言えば、隣から少しだけ不服そうな「なんで」という声が闇夜の中からやってくる。

私は夜空を見上げたまま答える。


「森崎くんはみんなにとって遠い憧れみたいな存在だったから。なんて言ったらいいかな⋯⋯うーん、主人公、みたいな。いつも輪の中心で、きらきらしてて、」


星も飛行機も、遠い存在だ。地上からいつも見上げていた。森崎くんと私もそれに似ているような気がした。