(どうしよう)


昨日、森崎くんは「あんな家に帰りたくない」と言っていた。


(どうしたらいいのかな)


昨夜は結局、何もできなかった。

話を聞いてそばにいて、そのうち、私に母親から買い出しの連絡が入った。

それでも帰るのを渋る私に、森崎くんは「早く買って帰ってやれよ」とぶっきらぼうに、それでも優しい声で告げた。

そうして、そのまま、微妙な雰囲気のまま別れたのだ。

あの心の内を聞いた今、前までのように「帰ろっか」などと気安く言えない。

森崎くんもキャップを目深に被ったまま、私の隣で排水溝の隙間に小石を蹴って落としている。

身体はすでに成人のように大きいのに、小石を蹴るしぐさはまるで小さな子どものようだ。

見た目が大人に近づいているだけで、私たちはまだまだ子どもだ。


「⋯⋯」
「⋯⋯」


まるで路頭に迷ったようなふたりの後ろで、がちゃがちゃと慌ただしい音がする。

振り向くと、店長が〈憩いの場〉の鍵を閉めていた。


いつも何かに追われているかのように慌ただしく動き回る店長は、噂好きのパートさんたち曰く、結婚が遅く子どもがまだ小学1年生らしい。

定年過ぎても子どもが成人になるまでは働かなくちゃ大変なんじゃない、と噂されていた。

気の強い女性のアルバイトが多い職場で、店長はいつも店長らしからぬ尊厳のなさでひとり慌てふためいている。高校生の私から見ても、そんなイメージのひとだ。

鍵を閉め終えて振り返った店長と目が合う。無言で会釈すると、「あ、春日井さん、ちょっと待って」と声をかけられる。


「時間大丈夫? ちょっとだけ待っててもらえる?」


ふたりの間の沈黙を破ってくれた店長の言葉に、こくこく、と頷けば、彼はスーパーの中へ小走りで入って行った。

かと思えば、本当にすぐ小走りで店を出てきて、私たちのもとへ戻ってきた。


「これ、食べて」


そう言って私に差し出してきたその手には、アイスの袋。ひとつの袋にふたつのアイスが入っているものだ。


「え、いや」
「昨日も今日も、春日井さんシフト代わってくれて助かったから、少しだけど食べて。本当はどれが好きか聞いてから買えばよかったんだけど気が利かなくてごめんね」
「いやそんな、」


躊躇う私に、店長は困った顔で笑いながら「もらって。じゃないとこれ廃棄になっちゃうから」と言う。