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夕飯前と割引の時間帯が重なり、レジに行列ができた。
そのせいで交代予定の人がヘルプに入るしかなくなり、結局、私がバイトにあがれたのは18時半を過ぎた頃だった。
急いで着替えを済ませ、〈憩いの場〉へ向かう。
(よかった、いた)
今日はスーパーに姿を見せなかった森崎くんだけれど、〈憩いの場〉に彼の姿はちゃんとあった。
「昨日は変な話してごめんな」
森崎くんは私を見ると、開口一番で謝りの言葉を告げてきた。
「全然、そんなことないよ」
面食らってしまった私は、ありきたりな返事しかできない。
「今日も遅かったんだな」
「あ、うん。昨日の人がまだ出勤できなかったから」
「そっか」
「うん」
会話はそれきりで途切れてしまう。
森崎くんのテーブルの上はまっさらで、私も同様に勉強道具を広げる気にはなれなかった。
ただ隣に座って、窓の向こうから聞こえる車のエンジン音を聞くともなしに聞く。
再会してから、私たちは当たり前のように隣に座っていろんな話をした。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
それでも、今はお互いに口を閉ざしたまま。
隣並んで座っているのに、まるで赤の他人のようだった。
ただ、ただ時間だけが流れていく。それでも、この空間から離れる、という選択肢は、私にはなかった。
語らず、離れず。そうして、時間だけを食べていく。
どれほどの時間が経ったのかわからなかった。
建付けの悪い扉ががたがたと音を立てて開けられて、はっと我に返った。
私も、森崎くんも反射的にそちらへ顔を向ける。
そこにいたのは、店長だった。
「おお、春日井さん、いたのか。昨日も今日も草野さんのシフト代わってくれてありがとねー」
「あ、いえ」
「ごめんね、ここもう閉める時間なんだよね。大丈夫かな?」
「はい。すみません」
店長はずかずかと中に入ってくると、戸締まりを始める。時計を見れば19時半。
私たちは〈憩いの場〉を出て、さっそく途方に暮れた。スーパーの営業時間は21時。
店内の明るさが、外に放り出された私たちには眩しく感じた。
