その理不尽を積み重ねられて、『早く大人になりたい』と一刻も早くと子どもを諦めてしまった子どもたちがどれほどいるのだろう。

夜に呑み込まれた外は、まだきっと昼間の熱を溜め込んでいる。

その暑さを、冷房の効いたこの部屋から想像はできても、実感はできない。

それと同じで、私は森崎くんの痛みを想像できても、実感はできないのだ。


「⋯⋯」


けれど、しかたのないこと、と流してしまえるほど、私はまだ大人じゃない。

そう思っているのに、彼のために言葉ひとつさえ紡げない。


(いつも本当に大切なときほど、言葉が出てこない)


その歯がゆさに、私は下唇を噛んだ。再び沈黙が訪れる。


「⋯⋯」
「⋯⋯」


こういうとき、私は私に心底うんざりするのだ。

森崎くんを鼓舞するような言葉も、背中をさすれるような言葉も、何も持ち合わせていない。そのことに。

頭の中は忙しいのに、身体の外側を覆う時間はただひたすらに静かだった。