「あいつらは俺が自分たちの思い通りにならないと毎回、大人の権利を振りかざすんだよ。そうやって子どもの俺を屈服させようとする」
あの頃の森崎くんはよく笑っていた。誰が見ても優等生だった。
でも、いま私の隣で苦しみを吐露する彼は、きっと、その頃からすでに何もかもを溜め込んでいたのだと、安易に想像できてしまった。
「親父も酔っ払ってたもんだから、『子どものくせに親に逆らうな』って最後に受けた拳が俺の左目に直撃」
はっと鼻で笑うような音が、静かな室内に虚しく響く。
「くそが」と悔しそうに感情のままに唾棄された森崎くんの言葉が、気持ちが、私の心にもぐっと滑り込んでくる。
窓の向こうの世界が夜に呑み込まれていく。
部屋の蛍光灯が窓に反射してぼんやりと闇の中に浮かんでいるように見える。
少しの沈黙を破るように「俺さ」と森崎くんが言う。その声は腹の底から絞り出したような、切実な声だった。
「やっぱり早く大人になりたい」
「⋯⋯うん」
森崎くんの深夜徘徊は条例違反で、たしかに悪いことなのかもしれない。
でも、そうせざるをえなかった彼の行動が本当に悪いものなのか、それを理解しようとした大人がどれほどいるのか、私には、そちらのほうが気になった。
「自由になりたい」
「うん」
世の中には『子どものくせに』という理由だけで、大人に呑み込まれてしまった正当な反抗が、どれほどあっただろう。
