隕石の落ちなかった夏



なかなか語り出さない彼の後頭部を、私はただじっと見下ろす。

吐き出してしまいたい言葉こそ、喉の奥につっかえてしまう窮屈さと、声に出した瞬間にそれを現実として受け止めなければならない苦しさを、私は知っている。

だから、ただ待つのだ。森崎くんの言葉を、ただじっと。


「⋯⋯昨日、いやもう今日か、深夜徘徊してるのがばれて親父に殴られたんだよね」


森崎くんは、ようやくその傷の原因を打ち明けた。


「『俺の顔に泥を塗りやがって』って」


その声に抑揚はなく、なんとか平静を取り繕っているように感じた。

この傷は、本当は誰にも見せたくなかったものなのかもしれない。

森崎くんは、小さく鼻で笑った。嘲笑に近い笑いに、何か別の色が混じっている。


「怒るとこそこかよって。母親も『きっと裏で悪い子とつるむようになったから』だの『これじゃ私が恥ずかしくて外歩けない』だの、そんなんばっかり」


私は彼のつむじから窓の向こうへと視線を逸らした。

雨は降っていないけれど、森崎くんの声に雨の音を感じた。

ぽつりぽつりと降り出した雨が次第に強まっていくように、森崎くんの言葉も、今や滂沱の雨となって唇から落ちていく。


「あんな家、帰りたくないから帰らなかっただけなのに。未成年の深夜徘徊は青少年保護育成条例に違反するだとさ。知るかよ。本当に家が安心できる場所ならとっくに帰ってんだろ」


森崎くんの声が鮮明な色を帯びるたびに、そこに感情が上塗りされていく。

その声は、太陽が出ているうちに会う彼とは、まるで別人のようだった。

彼が抱えるものは、それほどまでに肥大化していたのだろう。


「⋯⋯俺の親父ってさあ、気にしてないように見えてすんげー学歴コンプレックスあんのね。だから、それを兄貴や俺で解消しようとしてんの。母親にとって俺はよく集めるブランドものと一緒。見栄のために周りに自慢できるものしか好きじゃない」


中学3年生の頃の放課後、面談か何かで森崎くんの隣を歩いていた女性を、私は思い出す。

森崎くんの母親と、私は一度だけ会ったことがあった。

その女性の新品同様の高そうな服と鞄に、学校のスリッパがひどく浮いていたことをなんとなく覚えている。

ばっちりと化粧を施されたその顔に、私は化粧っ気のない母の顔を思い出し、妙に気後れして、挨拶をするや否や逃げ出したのだ。