その日、会計にやってきた森崎くんの顔を見て、私はぎょっとした。


「ど、どうしたのそれ」


思わず「いらっしゃいませ」の定型文をすっ飛ばして彼に訊く。

森崎くんは私の視線の先に気づき、「ああ」と素っ気なく、けれどさりげなくキャップを目深に被り直しながら答えた。


「宣戦布告」
「せん、せんふこく⋯⋯?」


不穏な言葉は、地味なスーパーには不釣り合いだ。おまけに能天気な店内放送まで流れているのだから、なおさらに。

けれど、いちばん不穏なのは、森崎くんの顔にできたものだった。昨日までは確かになかったはずのもの。


彼の左目の周辺には――青い痣ができていた。


おそらく、私がそれを気にしていることに、森崎くんは気がつかないふりをしていた。

彼はレジに通されていく烏龍茶と冷やし中華を見下ろしながら言った。


「バイト何時まで?」


どうしたってその青痣が気になりつつも、私は投げかけられた問いにだけ答える。


「今日は18時まで。急に病欠の人が出ちゃったから」
「そっか」
「袋はいらない?」
「うん」


いつも通り会計を終えて森崎くんは店を出ていく。

入れ違いで店に入ってきた主婦が彼を振り返って何度も確認していた。おそらくあの痣が見えたのだろう。

私はレジ業務をこなしながら、勤務時間が終わるまで幾度となく〈憩いの場〉のある方向へ視線を向けた。

ここから見えるわけはないのに、それでも、心に蜘蛛の巣が張ったようにずっと森崎くんのことが気にかかっていた。