「まるでここにいるのがだめみたいな言い草だな」
森崎くんは鼻を鳴らすように笑いを滲ませながら言った。
はっとして、私は「そうじゃないけど」と慌てて言葉を濁す。
せっかくなら。もったいない。
私は、私が言われたくない言葉を無意識に、森崎くんへとぶつけていた。
そのことに、今さらながら気づき、自分に失望する。ただ、同時に言われたくない言葉を言う人が、どれだけその言葉に無意識かも、今になって思い知る。
(言葉って、難しい)
私は、森崎くんに向かって口を開く。
ごめん、と言おうとしたのだ。何がごめんなのか自分でも説明できないくせに。
だが、私が謝るよりも先に、森崎くんは頬杖をついたまま口を開いた。
「俺がここで過ごしたいから過ごしてんの」
はっきりとした言葉には、気遣いもお世辞も含まれていないようだった。
森崎くんを見つめて口を噤む私に向かって、彼は、口角を上げて続ける。
「それにラインもSNSも全部アンインストールしてるから友達のことなんて何もわからん」
「えっ、なんで」
「遅めの反抗期だって言ったろ。せっかくの反抗期なんだから、こんな絶好の避難場所にいないなんてもったいない」
無邪気に笑う森崎くんに釣られて、私も口元を緩めて「なにそれ」なんて言って笑った。
「本音だよ」
いつも森崎くんは陽気に無邪気に、悩みなんてなさそうに笑う。
だから、私は、彼の苦しみの本質に、反抗期だという言葉の意味に、このときはちっとも気がつけていなかったのだと思う。
