思わず笑顔になった私に、森崎くんも唇を綻ばせる。


美味(うま)いね」
「うん、美味しい」


この甘みを味わえているのは、森崎くんが石田さんと親交を深めたからこそなのだと思ったら、私は口を開いていた。


「森崎くんってやっぱりすごいよね」


突然の言葉に、森崎くんはきょとんとした顔で私を見つめる。遅めの反抗期だと宣言しながら、彼はいつだって人当たりが良く優しい。


「誰とでもこうやって仲良くなれるの、私には絶対できないから」


森崎くんはきっとどんな人とだって交流を深められる。

中学の頃から彼は人気者だった。それはきっと高校でも変わらないだろう。

ここで会っている以外の森崎くんは知らないけれど、彼は昼前から夕方過ぎまでの1日の大半を、ここで過ごしている。

夏休み中だって彼と会いたい友人はいるのではないだろうか。そんな考えに今さらながら思い至る。


「森崎くんは学校の友達とかとは会わないの? ⋯⋯今さらだけど」


彼は、遅めの反抗期だと主張しつつも、全てに反抗しているわけではない。

毎日のようにバイトに明け暮れる私とは違って、彼は夏休みを満喫しようと思えばいくらでもできるはずだ。

私の問いに、森崎くんはやはり驚いた顔で瞬きを繰り返しながらも、そのうちに困ったような笑顔を見せた。


「本当に今さらだし、お互い様すぎるだろ」
「まあ、そうなんだけど、」


お互い様、という言葉に私の胸にはわずかな引っかかりを覚えた。

事実としては確かにお互い様だけれど、その背景は全然違う。

私はすでに飲み込んだはずの団子を喉に流し込むように、水筒に入った水を飲んだ。


「私は毎日バイトだし、学校の友達もそのこと知ってるから」


水を飲んでも、喉の奥のつっかえに似た何かは、今もまだ感覚として残っている。

夏休み明けの学校は少し苦手だった。肌を小麦色に変えるほど夏を満喫した人がいたり、昼夜逆転して眠そうな人がいたり、髪を染めて怒られる人がいたり、みんな、夏の前とはどこかしらが変わっているから。

きらきらした顔で思い出を語るみんなの横で、私はいつも空気みたいに、ただそこに居る。


「⋯⋯せっかくの夏休みなのに、こんなとこいて、もったいないじゃん」


気がつけば、そう、呟いていた。

隣から何の言葉も返ってこないことに妙な気持ちになって、私はようやく顔をあげて隣を見る。視線はすぐに合った。

森崎くんは、顔の正面を私に向けるようにして頬杖をついて、じっと、こちらを見つめていた。