家で観てきた勉強の動画をまとめたノートを見ながら、私は森崎くんが用意してくれたプリントの問題を解いていく。
解きながら、先ほど森崎くんに投げられた質問に答える。
「来年の夏は教習所行けたらなって思ってるよ」
来年の夏の話。私はバイトで貯めたお金で教習所に通おうと思っていた。
私に質問を投げた森崎くんは、おそらく来年こそ大学進学のための受験勉強で忙しいだろう。
そう思うと、むしろこうして彼と同じ日々を過ごしているのが不思議な心地になる。それほどまでに、この夏は、例外的で、偶発的かつ突発的なものなのだと実感する。
「車ないとこんな田舎生きていけないし、就職するにも車がないと通えないから」
「免許か」
私の言葉に、森崎くんは、指先でシャーペンをくるくると器用に回しながら、どこか考え込むように呟いた。私はそんな彼に首を傾げる。
「森崎くんは別に急いで免許取らなくてもいいでしょ?」
「んー」
曖昧な返事をする森崎くんに私の中の疑問が大量に浮かぶ。
微妙な間が流れる〈憩いの場〉に、扉ががたがたと音を立てて開いた。常連の石田さんがやってくる。
「あ、石田さんだ。こんにちはーっ」
森崎くんは扉の方に目をやると、元気な声で石田さんに挨拶をした。
いきなり森崎くんが石田さんに挨拶したことに驚きながらも、私も慌てて「こんにちは」と続けた。
私のか細い声では、おそらく彼に届いてはいないだろうけれど。
