「できるなら、みんなが嫌々行ってる塾にも行きたかったし、家でできるやつでもいいからやってみたかったな。でも、算数のテスト見て、お母さんに『ちゃんと授業聞いてなかったの?』って言われたとき、あ、そっかって思って。私は塾とか行ってもどうせ馬鹿なままだったんだろうなって」


テーブルの上に置いた指先を、意味もなく互いに触れ合わせる。意味のあることに置いていかれるとき、私はいつも気づかないふりをして、意味のないことに集中していたように思う。手遊びも、隕石も。

いつもの癖が出てしまっていたが、ふと、我に返る。

隣を見れば、森崎くんが勉強の手を止めて、じっと私を見つめていた。その真っ直ぐな目に、私は途端に羞恥がこみ上げてくる。


「ごめんね。質問しておいて、私が自分語りしてた。うわ、はずかし。ごめん、森崎くんの勉強の邪魔しちゃってた」


慌てて、へらりと笑って誤魔化す。そんな私に、森崎くんが言った。


「だったらこれから一緒にやればいいじゃん」
「え?」
「この夏の間に、わかるようになればいいだけじゃん」


真面目かつ、さらりとした口調で告げられた言葉に、私は目を瞬かせる。冷房の効いた〈憩いの場〉で、ひんやりと冷えた肌の感覚が失われていく。


「躓いたのだって、相性が悪かっただけだと思う」
「相性?」
「誰が悪いとかじゃなくて、ただ単純に春日井にあった勉強の仕方じゃなかったってこと」


その代わりに、密かに閉じ込めていたはずの、何かが気泡となって、ぶわぶわと浮かんでくる。


「俺も協力するからさ。いや、教えるのは下手なんだけど。動画とかでも参考になるのも結構あるし、春日井に合ったやり方はきっといくらでもあると思うよ」


頬に熱が集まっていく。視界がぐっと拓けていく。それでも、長年沁みついた習性は、防衛本能のように警報を鳴らす。


「でも、今さらやったって……、それに、森崎くんの邪魔になりたくないし」


森崎くんに向いていた私の視線は、再び自身への指先へと移りかける。小さな洞窟のなかへ逃げ込もうとする私を、森崎くんの言葉がぎゅっと掴んで留めた。