「春日井は高校卒業したらどうすんの?」
「就職だよ。うちに進学するお金なんてあると思わないし、勉強できないし。森崎くんは大学に行くんでしょ? 東京とか?」
「まあ、今んところは」
「すごいなあ。ねえ、ずっと聞いてみたかったんだけど、勉強って楽しいの?」
好奇心に満ちた目で森崎くんを見つめると、彼は目尻を垂らして笑った。人懐こい笑顔と共に逆に質問を投げかけられる。
「春日井は勉強楽しくないの?」
「楽しくないよ」
眉間に皺を寄せて即答する私に、森崎くんはさらに問いを重ねてくる。
「好きな教科もないの?」
「うーん、国語、くらいかな。でも国語も文法とか説明文みたいなのは嫌いだけど。私はこんなんだから、勉強できる人ってやっぱり楽しいと思ってやってるのかなってずっと気になってたんだよね」
いつだって本当に勉強のできる人たちは、さらりと答えを導き出して、それを鼻にもかけない。中学にあがると成績で順位が示されるようになり、優劣がはっきりとわかるようになった。
それでも常に上位でいる人たちはいつだって得意げにもしないし、自慢もしない。
森崎くんを含め、中学の頃からそういう人をいつもすごいなと思っていた。すごいなと思っていても、劣に属する私とは遠い存在なのは確かで、直接いろんなことを訊ける機会もなく、離れてしまった。
森崎くんは「俺もべつに勉強大好きってわけじゃないけど」と前置きをしながらも、考えをひとつずつまとめていくように言葉を紡いでいく。
「勉強に限った話じゃないと思うけど、単純にわからなかったことがわかる瞬間、できなかったところができるようになったときはやっぱ面白いと思うかな。教科ごとに学んでても、ある単元と単元で、結びつきとか繋がりとかが見えてくるのも面白いし」
森崎くんの話を聞きながら、やっぱりすごいな、と思う。そして、彼の見ているその面白い世界を、私も見てみたかったなとも思った。見ることなんてできない、と自覚しているからこそ、その思いはより強くなる。
