「え? じゃあ春日井の学校(とこ)は課題とかねーんだ」


森崎くんがシャーペンを器用に指先で回しながら言った。彼の手元にあるプリントには英文がずらりと並んでいて、私は目眩を起こす前にそこから視線を逸らした。

私が〈憩いの場〉へ足を運ぶと、森崎くんは黙々と学校の課題に取り組んでいた。塾はサボるけれど、学校の課題はきちんと取り組むあたり、勉強に対する姿勢が私とは違うんだなと実感する。


「夏休みも冬休みも春休みも、宿題なんてなーんにもないよ。だから休み明けに字書くとなんか変な感じするんだよね」
「どういうことだよ」
「なんか、私の字ってこんなんだったっけ、みたいな」


私の言葉に、森崎くんが笑う。

たとえ同じ中学校出身だとしても、その後の進路は大きく異なる。私は名前さえ書ければ受かると地元では評判の悪い公立高校で、森崎くんは有名大学への進学率も高い私立の進学校だ。


「課題とかなくても、教師とか厳しいやつはいるっしょ? 中学んときの野田センみたいな」


私に問いかけながらも、森崎くんは問いの5の解答をさらりと埋めている。


「野田先生みたいな人なんていないよ。生徒もやる気ないけど、先生もやる気ないから」
「マジで?」
「期待してないんだよ、生徒に。見ててわかるもん。先生全員ってわけじゃないけど、とにかく問題起こさず卒業すればそれでいい、みたいな。緩いから楽っちゃ楽だけど、なんかときどき、先生って私達のことどうでもいいんだろうなあって思う。かといってずっと怒られるのも嫌だけど」


小学校、中学校では熱血な先生の期待が鬱陶しいときもあったけれど、期待されないことより、期待される方が良かったんだなと今になってしみじみと思う。

期待されないということは、いてもいなくてもどうでもいい、ということだとわかったからだ。