私の家のことを知ると、周りが気を遣うのだ。慰めの言葉を吐く前に、みな、そうした表情を見せた。
だから、私は聞かれても何となく濁していたし、自分から話すなんてことはしなかったのに。
そのことをすっかりと忘れて、森崎くんに重荷を与えてしまった。
「森崎くんが謝ることじゃないよ。私の方こそごめんね、なんか勝手にひとりで、」
私は明るい顔を貼り付けて、『気にする必要のない話』にすり替えようとした。
「正直、俺は春日井の家の事情はわからない」
森崎くんはそれを遮って、先に謝罪の続きを紡ぎ出した。
「というか、わかった気にはなっちゃ駄目なやつなんだと思う」
素直で、愚直な、偽りのない言葉。憐れみでも、同情でも、慰めでも、励ましでもない、初めて返される言葉。
「……」
私は驚きで、固まる。森崎くんを、見つめる。彼も、難しい顔をしながらも、真面目な口調で続ける。
「それでも、わかろうとはしたい」
今まで私について、可哀想だね、大変だね、えらいね、とわかった気になって自分の視点から、いろいろな感情を投げてくる人はたくさんいた。
その人たちはみんな、春日井日向子というよりも、片親で貧しい家の子、という分類で私を見ていた。
「だから、話すのが嫌じゃないなら、春日井が思ってることとか、俺はちゃんと聞きたい」
森崎くんのように、私のことを、わからないけど、わかろうとしてくれる人は、今までいなかったのだと気がつく。
その気づきを得たとき、私の体内にめぐる冷たい風が、すう、と外へ抜けていくような感覚が、わずかながらも確かにあった。
