今日も森崎くんは私のいるレジへやってきた。立ちっぱなしで怠くなった足を片足重心にして慰めていた私は、かかとを少し浮かせて小さく跳ねた。
「いらっしゃいませ」
「お願いします」
森崎くんはそんな私に小さく笑いながら、私の前にかごを置く。
期間限定のシャーベットに冷やし中華と辛子明太子のおにぎり、ペットボトルのお茶が入っている。
森崎くんは私が手に取ったシャーベットを指差して言う。
「春日井、それ、本日限り88円。えぐくね」
客として来店した森崎くんは、レジに立つ店員の私に向かって、友達として接してくる。
「さすがに知ってるよ」
他の同級生に同様のことをされると、この微妙なラインをどうすればいいか迷ってしまうが、相手が森崎くんとなると、私は不思議と自然に接することができた。
「うわ、俺の感動との落差やばい。店員とか勝確じゃん、ずりいぞ」
「ごめん、意味わかんない」
たぶんこれは、森崎くんの人懐こさが成し得るものだろうが。
なんともなしに〈憩いの場〉で待ち合わせの約束を取り付けて、彼は店を後にし、私は業務時間を店員としてやり過ごす。
ただ、無感情で働いていた隙間に、森崎くんという存在が登場したことで、私はときどき、人間に戻って感情を動かすようになっていた。
